日東電工のAI First BPO事例:経費精算チェック業務90%自動化の実像

日東電工(Nitto)と日本IBMの事例は、経費精算AIエージェントを語るうえで重要だ。ただし、正確には「経費精算業務全体が完全自動化された」のではなく、「出張費・交通費などの経費精算チェック業務の90%をAIで自動的に確認・精査可能にした」事例である。
10年の進化
2016年: BPaaSで基盤整備
IBMの公式発表によれば、Nittoは2016年から、BPOとSAP ConcurなどのSaaSを同時導入するBPaaSへの改革を進めてきた。ここで業務ルールと運用手順を標準化したことが、後のAI活用の土台になった。
2023年: AI OCR等による効率化
2023年には、領収書原本の読み取りや照合を自動化するなど、業務プロセスの効率化に着手した。一方で、証憑や社内規定との整合、不備検知、手順書改訂などは、依然として人の目視対応が必要だった。
2025年: AI First BPOを本番業務に実装
日本IBMは2025年11月26日、Nittoの経費精算領域にエージェント型AIを活用したAI First BPOを導入し、2025年11月に本番業務での実装を開始したと発表した。AIは経費精算の手順書を読み込み、必要情報を収集し、証憑や社内規定との整合などのチェック項目を自律的にタスク化する。さらにSAP Concurのワークフローへの反映、承認、不備検知時の差し戻し処理も自動で行う。
ビジネス+ITの記事では、2025年4月にPoCを開始し、3か月後の7月には国内全社展開の意思決定を行い、11月に本番稼働した経緯が紹介されている。PoCでは、従来50%程度だった経費チェックの自動化が90%まで引き上げられることが実証されたとされる。
5つの教訓
- 標準化がAI導入の前提: AIに業務を任せるには、手順書と判断基準が明確である必要がある。
- PoCで対象業務を絞る: 最初から全経費業務を狙うのではなく、チェック業務など効果が測りやすい領域から始める。
- AIとBPOを組み合わせる: 自動化できない残りの業務や規程変更時の手順書整備は、人とBPOが担う。
- Human-in-the-Loopを残す: 例外処理、規程改定、重要判断は人間が確認する。
- 経営インフラとして捉える: 単なる経費精算効率化ではなく、AIを中心に据えた業務プロセス改革として設計する。
この事例は強力だが、IBM/BPO支援、SAP Concur運用、長年の標準化蓄積が前提である。他社が同じ90%を直ちに達成できるわけではない。自社で使う場合は、対象業務、件数、例外率、手順書の成熟度を分けて評価すべきだ。