経費精算は本当に「なくせる」のか?AIエージェントが変える経理の常識

「経費精算をなくす」と言うと極端に聞こえる。しかし、正確には、従業員の立替精算と経理の手作業チェックを大幅に減らす余地は、すでに現実化している。
Sansanの「経費精算に関する実態調査」(2024年、1,044名対象)では、立替経費精算は1社あたり月平均1,518件、経理担当者は月平均104時間を立替精算に費やしていると報告されている。SAP Concurの「経理白書2024」でも、経理職の最長労働時間は「週60時間以上」が38.3%で最多だった。経費精算は、月末月初の集中、差し戻し、インボイス確認、不正利用リスクが重なる高負荷業務である。
GBTA Foundation/HRSの2015年調査では、1件の経費レポート処理に平均58ドル、20分を要し、19%にエラーまたは不足情報があり、修正には追加で52ドル、18分かかるとされる。これは米国・出張経費領域の古いベンチマークであり、日本企業にそのまま当てはめるべきではない。ただし、手作業の経費処理が「件数×確認工数×差し戻し」で膨らむ構造を示すデータとしては有用だ。
事例面では、日東電工(Nitto)と日本IBMのAI First BPOが参考になる。IBMの公式発表によれば、Nittoは2016年からBPOとSAP ConcurなどのSaaSを同時導入するBPaaSに取り組み、2023年には領収書原本の読み取りや照合の自動化を進めた。2025年11月には、エージェント型AIを活用し、出張費・交通費などの経費精算チェック業務の90%をAIで自動的に確認・精査する運用を本番業務に実装した。
ここで注意すべきは、「経費精算が完全に消える」と断言しないことだ。現金取引、例外的な接待交際費、従業員への確認、社内規程の改定、監査対応は残る。現実的なゴールは、立替精算を法人カード等で減らし、証憑確認・勘定科目候補・規程チェックをAIで支援し、人間が例外と重要判断に集中する状態である。
法律が求めているのは、立替払いから精算申請までの特定プロセスではなく、証憑保存、適正な会計処理、税務・内部統制上の説明可能性である。したがって、法人カード、電子証憑保存、AIによる処理支援を組み合わせることは可能だが、電帳法、インボイス制度、社内規程、監査法人との合意を満たす設計が前提になる。
経費精算ゼロ化は「立替撲滅」「AIによる処理支援」「取引先とのデジタル接続」の3段階で進む。最初にやるべきことは、月間件数、差し戻し件数、処理時間、例外パターンを測ることだ。経費精算がなくなる日は、経理部門が不要になる日ではない。経理が単純チェックから、内部統制、データ分析、事業部門支援へ移る日である。