導入事例 日清食品ホールディングス株式会社

日清食品ホールディングス株式会社(以下、日清食品HD)は、主にカップヌードルをはじめとした即席麺、チルド・冷凍食品、飲料・菓子等を製造販売する、国内大手の食品メーカーである。1万4千人を超える従業員を抱え、海外4地域でも積極的に事業展開を行っている。同社は、中長期成長戦略の一環として、NBX(ニッシンビジネストランスフォーメーション)を掲げ、デジタル時代における事業構造改革を推進している。財務経理分野においては、労働生産性の向上を目指し、ツールの活用やペーパーレス、はんこレス等、デジタルトランスフォーメーション(財務DX)に取り組む。今回、同社の財務DXプロジェクトのマネージメントを担い、Remotaの導入に携わった財務経理部課長、三浦健志氏と財務経理部係長、矢島勇樹氏にお話を伺った。

プロジェクトの目的

財務DXで業務プロセスのデジタル化と社内変革を目指す

日清食品HDは、日清食品グループ全体の経営戦略を策定・推進する役割を担っている。それには、グループ会社の財務、経理状態を把握すると共に、戦略強化や効率化を実現するプラットフォームを構築しなければならない。財務DXはその取り組みのひとつだといえる。

財務DXプロジェクトの目的は、単なる経理・財務関連業務プロセスのデジタル化に留まらず、デジタル技術を活用することで組織や働き方を変革することを目指している。「働き方改革」、「ガバナンス・経営基盤強化」、「社員の意識改革・組織風土改革」という3つの軸を中心として、ペーパーレス・はんこレスによる場所にとらわれない働き方の実現や、グループ全体で統一した規定やルールづくり、デジタル化の効果を実感することによる社員の意識や組織の風土改革等を推進する。その中でも、ペーパーレス、はんこレスの観点から、優先課題として位置づけられたのが、請求書および経費精算に関わる処理である。

課題

年間7万時間超の作業工数と30万枚の紙処理

日清食品HD財務経理部では、日清食品、日清食品チルド、日清食品冷凍、明星食品を中心に8社の経理業務を受託している。グループ各社の現場担当者が伝票投入を行い、日清食品HDの財務経理部にて、伝票に対する会計上のチェックや出納業務を代行している。

例えば、請求書の処理は、従来の紙ベースでのやりとりが続いていた。まず取引先から、紙の請求書が発行・郵送されると、それを受け取った現場部門は、システムに手入力を行う。承認には押印が必要で、経理部門に紙を提出し、経理部門では、入力チェックを行うと共に、紙の保管作業も必要だった。

紙ベースでの処理は、人的工数もかかるし、誤入力等の人的ミスも発生する。請求書および経費精算処理において、同社は、年間30万枚にものぼる請求書・領収書等の紙の印刷と保管を行い、それに伴う作業人員は3千人を超えていた。概算で年間7万時間以上もの業務工数を費やしていた計算となる。また、物理的な紙の提出や押印のために出社が必要となるため、テレワークの推進を阻む要因となっていた。

三浦氏は、「財務DXプロジェクトでは、電子請求書やPDF請求書の活用と、AI-OCRのデータ読み取りによる半自動入力を実現することで、請求書の受領から、入力・承認・経理提出・保管までを一貫して『ペーパーレス』、『はんこレス』にし、作業工数を大幅に削減することを目指しました」と説明する。データ入力や承認基準の見直し等、業務プロセスやルールの見直しも併せて行い、生産性の向上を目指して最新のツールを導入することになった。

課題
  • 年間30万枚の紙処理と保管に関わる多大な手間と工数

  • 手作業による人的ミスの発生

  • 紙やはんこの業務フローがテレワークを阻む要因に

導入

Concur InvoiceとRemotaの連携

財務DXプロジェクトにおいては、請求書処理のメインシステムとしてConcur Invoiceを、ユーザーの請求書入力をサポートするAI-OCRとしてファーストアカウンティングのRemota※1をそれぞれ導入した。Concur Invoiceのデータは、ERPシステムであるSAPと連携している。

現状の業務運用を考慮しつつ、Remota、Concur Invoice、最終的に数字の入るSAPと3つのシステムの設計を意識する必要があったため、要件定義には時間を要したという。請求書支払・経費精算全体の構想策定に約半年間かけ、その後、2021年6月から順次日清食品HDを含む8社に対する請求書関連のデジタル化運用を、2022年3月より6社に対する経費精算関連のデジタル化運用を開始した。

請求書の受け取りは、紙からデータに切り替えるという運用変更を行った。PDF請求書をメール等で受け取り、Remotaへ送信する。Remota上で確認を実施した後Concur Invoiceへ取り込み、Concur Invoice上でデータ編集を行う。現在は、まだ2ステップでの運用となっているが、Remotaの仕訳入力機能や、過去仕訳反映機能を活用して、今後は1ステップ化を目指している。

三浦氏は、プロジェクトを推進するうえで苦労した点について、次のように語った。「請求書は、企業活動を行ううえであらゆる部署に発生するため、関係部署が多く、説明や調整等が大変でした。理解浸透の観点からは、導入後も説明会を実施したり、マニュアルやFAQを整備したり、様々な取り組みを行いました。導入からしばらく経過して問い合わせ件数は減少しましたが、2次対応として、AIチャットボットへのQ&A登録等、日々改善活動をしています」

※1 経理業務に特化したプラットフォームであるファーストアカウンティングのAIソリューション。AI-OCRの機能で証憑を読み取るだけではなく、AIが最適な勘定科目を特定して仕訳作業を行い、ERPやワークフローと連携することで、経理の一連の業務を自動化することができる。

導入効果

74%の請求書がペーパーレス、はんこレスに

請求書の受け取りは、データ受領を原則としたことで、74%の請求書について完全なペーパーレスおよびはんこレスを実現している。これにより、「年間9万枚の紙保管および年間約2万4千時間分の工数(そのうちの約半分が、AI-OCRの活用およびペーパーレス化の処理が寄与)の削減が見込まれ、高い生産性を実現する働き方につながっている」と三浦氏はいう。また、ツールの導入に伴い、承認プロセスの見直しや、レポートおよび監査ルールの活用により、より効率的かつポイントを抑えた確認プロセスを実現できた。Remota等のデジタルツールをうまく活用しながら、新しい業務プロセスを構築できたと三浦氏は振り返る。

現在は、電子帳簿保存法に係る規程等の体制整備を行い、残る3割の紙請求書についても、スキャンデータを読み取り、Concur Invoiceへのアップロード後は原本廃棄をすることで、現状残存する紙による保管をゼロにできるよう取り組みを進めている。

領収書と比べると、請求書の様式は複雑だが、識別精度の高いAI-OCRソリューションRemotaを導入することで、高い精度で読み取りの自動化を実現できたと三浦氏はいう。「当初はテストがうまくいかなかったり、設定が思い通りになっていなかったりと不安もありましたが、徐々に洗練され、仕様が確定されるに従って、しっかりと効果が出るものが出来上がり、大変良かったです。現在、請求書全体約5万件のうち、だいたい半分がRemota経由になっていますから、各現場のユーザーの方々にもちゃんと使ってもらえるシステムになっていると思います。また、実際に効果測定を行って、紙の請求書や紙伝票の処理がどれほど負担になっていたか、そしてデジタルツールにはまだまだ活用の余地があることに気づきました」

現場ユーザーへのヒアリングでは、「PDFでの処理が可能となり、紙提出が不要になったことで、毎月の作業時間が削減できて助かっている」という入力者からの声や、「従来は紙ベースで請求書と伝票を照合し、その後システムにログインして承認を行なっていたが、請求書がデータ化されシステム内に表示されることにより、作業をワンストップで行なう事ができるようになったので大変便利。他のシステムもこのようにできないか見直しをしていきたい」という承認者からの声も見られ、社員の意識改革のきっかけにも繋がっているという。

導入効果
  • 74%の請求書について完全なペーパーレスおよびはんこレスを実現

  • 年間9万枚の紙保管および年間約2万4千時間分の工数を削減

  • 残り3割の紙情報についても、紙保管ゼロを目指して推進中

  • 社員の意識改革にもつながっている

今後の課題と展望

電子インボイス時代に即したソリューションを

今後、ファーストアカウンティングには、電子インボイス時代に即したソリューションの提供を期待していると矢島氏はいう。

「2023年10月に開始予定のインボイス制度については、情勢を鑑みつつ、電子請求書の利用推進を含めて適切に対応できるよう進行しています。今後、ファーストアカウンティングには、Peppol(ペポル)アクセスポイントの展開や、適格請求書発行事業者登録番号の自動照合等も期待したいところです。」

「また、Concur Invoiceは承認ワークフローおよび証憑保管のみとし、Remotaで入力作業を集中化させたいと考えています。現状は、請求書のヘッダ情報や明細情報の読み取りのみをRemotaで行っており、会計仕訳情報等は連携していない状態です。今後、会計仕訳機能やAIが過去の仕訳を記憶するハイパーペースト機能※2を導入することにより、Remotaでワンストップ処理ができるようになれば、さらなる作業時間の削減につながるでしょう。複数証憑の直接アップロード、仕訳項目欄の追加機能等、利便性の向上にも大きく期待しています。また、読み取り精度についても、現状100%とは言えないため、今後読み取り精度の向上にも期待をしています」と展望を語った。

※2ハイパーペースト機能とは、AI-OCRの読取結果とRemotaに過去入力された仕訳データを組み合わせることで、勘定科目や摘要等の仕訳データの作成を自動化する機能。Remotaで作成した勘定科目(経費タイプ)はOCR結果と同様にConcur Invoiceに連携されるため、Concur Invoice上での申請前の経費タイプの入力作業を省力化することが可能になる。

今後の課題と展望
  • インボイス制度への対応(適格請求書発行事業者登録番号の自動照会)

  • 利便性向上につながる各種機能の拡充

  • 読み取り精度の更なる向上