導入事例 エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社

エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社(以下、エイチ・ツー・オー リテイリング)は、阪急阪神東宝グループの一員として、関西エリアを中心に、百貨店、食品スーパー、商業施設、専門店やコンビニエンスストアなどを展開している。そのエイチ・ツー・オー リテイリンググループ46社の経理・給与計算業務を受託し、シェアードサービスを提供しているのが、2003年に設立された株式会社阪急アクトフォー(以下、阪急アクトフォー)だ。グループ各社の業務を一拠点に集約する形で受託し、各社の業務負担を軽減する一方で、グループ全体の業務を効率化しコア業務に集中できる環境を提供、コスト削減と精度向上にも貢献している。同社は、請求書支払システム「Concur Invoice」にてグループの経理業務電子化を推進しており、入力負荷を削減するため、同システムとAPI連携が可能なAI-OCRとして、ファーストアカウンティングのAIソリューション「Remota」を採用。現在、グループ内の一部企業に先行導入し、今後はグループ全体を対象に展開していくことを予定している。Remotaの導入について、エイチ・ツー・オー リテイリング財務室長兼阪急アクトフォー代表取締役社長の野村肇氏にお話を伺った。

課題・目的

請求書の入力業務の負荷低減とペーパーレス化目指して

阪急アクトフォーは、グループ内44社に対する経理業務と、35社に対する人事業務を受託している。

請求書支払業務はシェアードサービスとして集約していたものの、紙面上に印鑑を押す承認フローや請求書をシステムに入力する業務の負荷が高く、電子化・効率化の推進のため、AIソリューション「Remota」※1の導入を決断した。それにより、紙の保管や倉庫に送る付随業務をなくしたいという考えもあった。

※1 経理業務に特化したプラットフォームであるファーストアカウンティングのAIソリューション。AI-OCRの機能で証憑を読み取るだけではなく、経理の一連の業務をAIにより自動化することができる。

選定理由

読み取り精度の高さと帳票定義不要のソリューション

AI-OCRの採用においては、複数社のソリューションを比較検討した。その中で、ファーストアカウンティングのRemotaに決定したのは、読み取り精度の高さが大きな理由だったという。

「また、識字率はもちろんですが、それだけではなく、帳票定義が必要な他社のAI-OCRは、設定作業がかなり大変だということが判明したのです。当初は、自分たちで帳票定義をした方が良いのではないか、という考えがあったのですが、証憑定義が思いのほか複雑で、自分達で取り組む中で精度を上げていくのは難しいだろうと、限界を感じました。その点、Remotaはディープラーニングによって経理特有の証憑書類の形式を予め学習するため設定が不要で、定期的に行われるAIのアップデートで文字認識精度の向上を図る点が大きなアドバンテージと考えました。後は、どれくらいの頻度でアップデートが行われるかですね。」

Remotaの
選定理由
  • 高い識字率

  • 経理特有の証憑書類を予め学習した帳票定義が不要なソリューション

  • 定期的なAIのアップデートで文字認識精度を向上

導入

グループ各社の最適解を探る

グループ企業にシェアードサービスを提供する場合、プロジェクト推進でハードルとなるのは各社からの理解を得ることだ。グループ内でも個々の会社毎に、取引先や取引内容は異なり、集まる請求書や証憑も多くの種類がある。なぜデジタル化が必要なのか、頭ではわかっていても、いざ業務プロセスを変更するとなれば抵抗を覚える担当者も少なくない。

「各社、デジタル化の意味は理解されています。環境課題として紙を削減すべきことはもちろん、デジタル化によって自動化や省力化につながること、入力ミスが減少して正確性が担保されることもわかっています。ですが、例えば紙の申請書を出すフローで、現場が手元の紙を見ながら幾通りもの業務を処理したり、責任者に案件ごとの詳細な報告を行って承認を得ている場合など、デジタル化で紙がなくなってしまうと困るというケースもあります。画一的にプロセスを統一するのではなく、各社のやり方を理解しながら、丁寧に時間をかけて説明をしなければなりません。各社の差をきちんとすくい取れるようなカスタマイズができれば、より良いサービスにつながると思い、試行錯誤を重ねています」

IT環境や情報リテラシーについても会社毎に異なるため、新しいやり方が馴染むかどうかは差があるのだと野村氏はいう。どうしたら各社にとって付加価値の高いサービスを提供できるか、シェアードサービスとしての力量が問われる。

なお、導入時のファーストアカウンティングのサポート対応について、野村氏は同社の印象を次のように語った。「タイミング良く丁寧な対応をいただいていますし、大変熱心です。当社の他のメンバーも、『とにかく反応が早い。例えばメンテナンスのタイミングや不具合情報の共有なども、きめ細やかなアナウンスが迅速にされている』と同意見でした」

エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社 野村氏

導入効果

入力・確認作業の効率化と保管コストの削減

Remotaの導入により、2022年7月までにグループ16社の請求書鑑、明細の読み取りが自動化されている。阪急アクトフォーは、グループ各社の紙の帳票を受け取り、Remotaを使用して電子化をしているが、導入前は、読み取り精度について同社のメンバーは疑心暗鬼だったという。「ところが、ふたを開けてみると読み取り精度は想像していたよりもずっと高く、『案ずるより産むがやすし』でした。

現時点では未導入会社の紙の処理と併用という流れになるため、効率化やコスト削減が具体的に明らかにはなっておらず、むしろ従来カスタマイズして使っていたシステム機能の使い勝手や、作業の流れの面で見れば後退している部分もあるかもしれません。しかし、これらは織り込み済の話で、展開範囲の拡大によって効率向上が顕在化すると考えています。

また、デジタルデータとして保管する会社が増えるほど、紙の書類を箱につめて倉庫に送るという従来のやり方が変わり、倉庫使用料、運搬、それらを管理する人件費の削減などの効果が見えてくると思います。ですから、今はまず導入会社を増やし、電子化される帳票の比率を大きくしていくことがやるべきことだと考えています。全部塗りつぶした後には違う世界が見られるのではないでしょうか。

小売業、特に食品は個人商店との取引も多くあります。例えば物産展などの催事では、小さい商店や地方の農家の取引先も多いですし、デパートの趣味雑貨の売り場では作家さんが個人事業主として作品を販売しています。そういった方たちは、手書きの請求書を出されるケースも多いので、今後さらにRemotaの導入を拡大し、読み取りを自動化できれば効果は大きいでしょう」と野村氏は語った。

グループ内取引でも紙の請求書を行き来させているケースは多く、本当の効率化は、グループ会社でのやりとりもデジタル化ができてこそ実現できると野村氏は考える。グループ全体でのデジタル活用を推進すべく取り組みを急いでいる。

導入効果
  • 入力・確認作業の負荷軽減

  • ペーパーレス化による紙書類の管理コスト削減

  • 今後の導入拡大でさらなる効果に期待

今後の課題と展望

識字率のさらなる向上と業務フロー全体を見据えて

導入を推進する中で、見えた課題は2つある。

「1つ目は、読み取り精度の継続的な向上です。識字率は7割強といった感触で、当初の想定よりもかなり高いものの、小売店や物産展で発行される複写式で文字が薄い請求書など読み取れないものがあります。こういったものは、できるだけ再学習させることで改善できればと思います。

2つ目は、業務フロー全体の課題です。導入の目的のひとつは、紙の情報を電子化することにより、保管や倉庫への移送といった付随業務の負担をなくすことでした。デジタル化が自動化につながり、正確性を担保できるところまでを目指すのであれば、業務フロー全体を見直してデジタルに最適化しなければなりません。今、入り口に入ったばかりで、業務フローの自動化はまだまだこれからです」

取引の発生時に取引の当事者がデータ入力を行う「発生源入力」という考え方がある。例えば、経費精算を行う際、当事者がミスなく入力できる仕組みを用意し、電子データが中間集計部門を経由せずに、経理が会計システムでそのまま使えれば、会計データと業務の流れを一致させることができる。役割分担をした上で、どのように業務効率化を実現できるか、挑戦は続く。

Peppolへの対応に期待

「最終的に目指すのは、紙を電子化するのではなく、最初から電子で受け取るということです。Remotaで紙やPDFを受け取るその先には、Peppolで受領できるプラットフォームがあると思うので、そちらの方向も積極的に推進してほしいと期待しています」と野村氏は言葉を継いだ。 ファーストアカウンティングは、2021年5月に 「Peppol(ペポル)」全体の仕様等を管理している「Open Peppol」のメンバーに日本で最初に参加しており、このたび2022年7月、日本におけるPeppolサービスプロバイダーとして、デジタル庁より「認定(accreditation)」を受けた。

今後、Concur InvoiceとRemotaの仕組みは、2023年4月より阪急阪神百貨店など追加の10社を、同年10月より、食品事業を担うイズミヤ、阪急オアシスなどさらに10社を対象として展開を拡大する予定だ。2023年度にひと通りの導入を完了し、2024年には電子データを受け取れるよう基盤をととのえることを目標としている。

記事の内容は、2023年1月16日時点での情報です。