導入事例 花王ビジネスアソシエ株式会社

花王グループの経理機能を担う花王ビジネスアソシエ株式会社(以下、花王ビジネスアソシエ)は、国内花王グループ20数社も支払業務を集約している。支払業務以外にも決算業務や伝票チェックなども会計業務全般を行なっているが、とりわけ支払業務は占める割合は大きい。

花王グループは、花王ウェイ(The Kao Way)という企業理念があり、「正道を歩む」という価値観のもと、法令遵守を大切にしている。「世界で最も倫理的な企業(World’s Most Ethical Companies)」に15年連続で国内企業では唯一表彰され続けている。

企業理念のもと、花王ビジネスアソシエでは法令遵守を重んじ、会計仕訳、消費税や源泉徴収税まで厳密に管理・運用を行なっている。そんな花王ビジネスアソシエがRemotaを導入した背景を、ビジネスサポートセンター 会計サービスグループ 部長の上野篤氏、同グループ 五百井 もえ氏、同グループの樋口玲子氏に伺った。

課題

RemotaでAtoD(アナログトゥデジタル)の加速に期待

花王では、2019年からグループ全体で電子化を進めている。しかし、取引先から紙の証憑が送られてくることがまだまだ多く、大体7割が紙の証憑で届く状況である。その状況には、取引先が紙の請求書を自動発送している都合があり、1社分だけを電子請求書の仕組みにすることは難しいという背景がある。なかなか紙の請求書でのやりとりを減らすことはできない現状を踏まえて、今はAtoD(アナログトゥデジタル)の方向で進めることが妥当だと上野氏は考えている。

「DtoD(デジタルトゥデジタル)[注1]を本当は所望しているが、自社努力だけでは限界がある。紙で受け取ってもPDFで受け取っても、PDFデータに変換し、AIソリューション”Remota “で読み取れば、デジタル化できる。AtoD [注2]を、Remotaでさらに加速しようと考えています。」(上野氏)

さらに2009年から10年間、経理業務おけるチェック作業(請求日、宛名、勘定科目、​金額、明細、支払先、押印の有無など複数にわたる項目のチェック)はアウトソーシング(BPO)で行なっていたが、2022年から内製化する方針となった。今までは社内の経理業務の担当者はチェック以外の業務にリソースを当てることできたが、今後はチェックも含めて、全般の業務を担当しなければならない。五百井氏は経理のチェック業務のリソースを社内で揃えることは簡単なようで簡単ではないと語る。

花王ビジネスアソシエ株式会社 会計サービスグループ 五百井 もえ氏

「なるべく人がチェックにかかる工数を減らしたいと考えています。AIソリューション”Remota”が最初にチェックし、その結果で再度チェックが必要なものだけを人がチェックする。そのようなフローを作れたら、少ないリソースの中でのチェック体制が取れるのではないかと思っています。」(五百井氏)

連携概要

さらに、高齢化も進んでいて、チェック業務にあたる多くが50代であることも課題でもあるという。

「実務をされる方が50代なので、新しいものへの習熟を促すというより、AIソリューション”Remota”を使って50代・60代の実務をサポートできる仕組み作りを目指しています。」(樋口氏)

導入前の課題

  • 紙の証憑でのやりとりが7割、DtoD(デジタルトゥデジタル)の限界
    取引先からの紙での証憑は全体の7割。電子取引は3割の壁があり、DtoDで対応する領域の限界があった。
  • アウトソーシング(BPO)で対応していたチェック作業を社内で対応する方針へ
    経理業務のチェック業務はアウトソーシングしていたが、社内で対応することになった。チェック業務にあたるリソースの確保は簡単とは言えない。
  • チェック作業へあたる従業員の高齢化
    社内でチェック業務にあたる従業員の高齢化により、新しい業務に対しての習得に課題が残っていた。

Remotaを導入の検討を始めた背景には、「DtoDの限界」「アウトソーシングしていたチェック作業の内製化への変換」「高齢化」の3つの課題があった。

さらに上野氏は「マーケティング、販売セールス、研究職など全ての従業員へ税制コンプライアンスを認識させることは難しいが、シェアードサービスを利用して、厳密さはもっと推進していくべき部分です。花王が法令遵守しなければならない項目を人間に依存しないで達成できる仕組みを目指しています。」と話す。

[注1] 取引先からPDFなどデジタルで証憑を受け取り、社内処理もデジタルで行う

[注2] 取引先から受け取った紙の請求書や領収書を画像化し、社内プロセスにAIなどを導入しデジタルで処理を行う

選定理由

厳密な経理業務には明細まで読めるAIが適切と判断

一つ目の選定理由は、請求書の明細まで読み取れることだ。花王では明細まで読めるAIを使いたいと当初から考えていた。

「表題だけでは不十分で、一つの請求書でも単純に物品の金額の部分もあれば、業務委託費の部分もあります。場合によっては前払費用も明細の中に記載されていることもあります。明細まで読み取れることが魅力的でした。」(上野氏)

より効率化し、明細の勘定科目を自動判定すれば効率化は一層進むだろう。

また花王では、明細の縦計横計(表の各列の合計額:縦計と各行の合計額:横計)の完全一致を厳しくチェックしている。他のOCR[注3]では、総額だけしか読み取ることができなかったが、Remotaは明細も読み取れ、花王の経理業務において理想としている経理が実現できる機能が搭載されることに魅力を感じたと五百井氏は話す。

2つ目はRemotaの読み取り精度だ。座標登録をしないといけないと思っていたが、座標登録も必要とせずに、その読み取り精度は衝撃的だったと上野氏はデモを見た時のことを振り返る。

さらにファーストアカウンティングのサポート体制も花王が求めている理想だった。

「AIを学習させるのは花王側で行わなければならないソリューションもあり、過去の請求書を繰り返し読ませて、補正なく読み取れるようにする作業を行っています。ファーストアカウンティング側で対応いただけるのが、私はとても便利だなと感じました。」(樋口氏)

花王ビジネスアソシエ株式会社 会計サービスグループ 樋口玲子氏

既存で利用しているシステムとAPIで連携して、システムとシステムの間に人が入らなくて済むことで人の操作ミスを防止できる。

「今使っているソリューションは、人が介入する場面が多く、オペレーションミスのリスクを伴います。チェックを最終的には行う経理マンとしては、正しい処理が担保されている状態でチェックできることが望ましいです。人の介入の少なさも大きな魅力です。」(五百井氏)

選定理由

  • 請求書の明細の読み取り
    厳密な会計には明細まで読み取り、正確にチェックすることが求められる。必要な機能がRemotaには搭載されていた。
  • 座標設定を必要としない
    従来型のOCRのように面倒な帳票の定義は一切不要。請求書は特にレイアウトがさまざま存在するため、座標設定を必要とするOCRでは工数削減につながりにくい。座標設定せずとも読み取れるAIソリューションを使うことで工数の削減に期待が持てる。
  • AI学習に関するサポート体制
    ソリューションによっては、AIの学習は導入側で行う必要があるが、ファーストアカウンティング側で事前に学習した状態で提供。読み取りができない請求書がでた際も、ファーストアカウンティングがAIに学習させて精度の向上をさせる。

[注3]光学式文字認識(OCR) 技術は、手書きの文字やスキャンした画像データを読み取り、文字をテキストのデータとして抽出する技術。

今後のビジョン

PoCで人間の介入を極力減らした経理チェック作業を目指す

花王ビジネスアソシエでは、Remotaの「明細の読み取り」「自動仕訳」の機能を高く評価し、「人を介さない連携」「勘定科目の自動判定」「源泉徴収税などのチェックの自動化」の実現に期待をし、AIソリューション「Remota」の提供を開始した。導入後はフェーズに分けて、Remotaの導入領域を拡大し、極限まで人が行う定型業務を減らしていくことが目標だ。

S T E P1:人を介さない連携
紙で受け取った証憑をPDFにし、Remotaが読み取り、BtoBプラットフォームへデータを受け渡し、SAPに転記する。人のBtoBプラットフォームへの手を使った入力を減らす。

S T E P2:勘定科目の自動判定
AIに学習させ、勘定科目の判定をRemotaが行う。

S T E P3:源泉徴収税などのチェックの自動化
経理業務における基本的なチェック作業を極力減らす。

花王ビジネスアソシエ株式会社 会計サービスグループ 部長 上野篤氏

これまでも間接材購買でのeマーケットプレイス(KAOモール)やBtoBプラットフォームなどを導入し、DXを進めてきた。その結果、請求書のみならず、領収書、納付書、外国送金、全ての紙の会計台紙の件数は、2015年78万件から2020年21万に減っていて、2015年と比べるとおよそ27%まで減ってきている。

「Remotaで挑戦する領域は、スポット取引が中心で継続的ではない支払業務をはじめ、年度支払の会費や協賛金、定期定額支払、種々の個別報酬などの多様な支払です。最もDXが難しい領域なのです。最後にして最難関の挑戦になります。」(上野氏)

花王グループはビジネスが拡大する中で、紙によるレガシー取引は、ら2020年度21万から2021年度15万件以下を目指して邁進している。

記事の内容は、2021年5月17日時点での情報です。