05.【借手必見】新リース会計基準の会計処理を仕訳例で完全マスター|使用権資産・リース負債の算定方法

  • 新リース会計基準

5-1. 借手の単一会計処理モデル

新基準では、ファイナンス/オペレーティングの区分を撤廃し、借手は全リース契約に対して単一の会計処理モデルを適用します。リース開始日に、

  • 使用権資産(固定資産に区分表示/または「使用権資産」科目で独立表示)
  • リース負債(流動負債と固定負債に区分)

を計上し、その後、使用権資産は減価償却、リース負債は利息法で按分処理します。

5-2. リース負債の算定方法

リース負債は、リース期間中に支払う「借手のリース料」を割り引いた現在価値として算定します。

リース料に含まれるもの:

  1. 固定リース料(実質的固定リース料を含む)
  2. 指数・レートに依存する変動リース料(開始日のレートで測定)
  3. 残価保証額のうち借手が支払うと見込む金額
  4. 行使が合理的に確実と見込まれる購入オプションの行使価格
  5. 解約することが合理的に確実な場合の解約違約金

割引率は次の優先順位で決定します。

  1. リースの計算利子率(容易に算定できる場合)
  2. 借手の追加借入利子率(一般的にはこちら)

5-3. 使用権資産の算定方法

使用権資産=リース負債計上額 + 前払リース料 + 付随費用 + 資産除去債務(負債計上される場合) − 借手が貸手から受け取ったインセンティブ

リース・インセンティブ(一時金やフリーレント等)を貸手から受け取った場合、その額を控除することを忘れないでください。

5-4. 仕訳例:オフィスの賃貸借契約

前提条件

  • 月額リース料:500万円(年6,000万円)/後払い
  • リース期間:5年
  • 割引率:3%
  • 短期・少額リース該当なし
  • 簡便のため税効果は無視

現在価値計算

PV = 6,000 × [1 - (1+0.03)^-5] / 0.03 ≒ 6,000 × 4.5797 = 27,478万円

① リース開始日の仕訳

(借)使用権資産  274,780,000 /(貸)リース負債  274,780,000

② 1年目末の仕訳(年間支払60,000,000円)

(借)支払利息       8,243,400 /(貸)現預金     60,000,000
(借)リース負債    51,756,600

③ 1年目末の減価償却(定額法5年)

(借)減価償却費   54,956,000 /(貸)使用権資産  54,956,000

5-5. 旧基準との損益比較(5年累計)

項目旧基準(賃貸借処理)新基準(オンバランス)
賃借料300,000,0000
減価償却費0274,780,000
支払利息025,220,000
費用合計300,000,000300,000,000

累計費用は同額ですが、新基準では支払利息が前加重で発生するため、初年度の費用は旧基準より高く、最終年度は低くなります。

5-6. リース期間中の見直しイベント

以下の事象が発生した場合、リース負債と使用権資産の再測定が必要です。

  • リース期間の見直し(延長・解約オプションの判断変更)
  • 残価保証額の見直し
  • 指数・レートに依存する変動リース料の改定
  • 購入オプションの判断変更

再測定は計算ミス・入力漏れが発生しやすい論点であり、システム化必須の領域です。

5-7. 表示・注記のポイント

  • 使用権資産は原資産を所有していたと仮定した場合の表示科目(建物、機械装置等)に含めるか、「使用権資産」として独立表示
  • リース負債は「リース負債」として表示
  • キャッシュ・フロー計算書では、元本部分は「財務活動」、利息部分は「営業活動または財務活動」として開示
  • 注記では、リースの内容、リース料の総額、割引率の決定方針、変動リース料、購入オプション等を開示

5-8. 割引率の決定実務──「追加借入利子率」をどう求めるか

新基準は、リースの計算利子率が容易に算定できない場合、**借手の追加借入利子率(IBR:Incremental Borrowing Rate)を用いるとしています。IBRは、「同等の期間・通貨・担保条件で、対象資産と類似の経済環境で借入を行った場合に適用される金利」**と定義され、実務では次のステップで算定します。

  1. 無リスク金利(国債金利・スワップレート)をリース期間に合わせて取得
  2. 借手の信用スプレッド(自社の社債発行スプレッド・銀行借入実績)を加算
  3. 担保・通貨・期間の調整(不動産担保/海外通貨/長短期間)を反映

割引率の決定方針は契約ごとに変動するパラメータであるため、社内ルールで算定方法を文書化し、毎月のリース開始日基準で更新する必要があります。

5-9. 仕訳例②:解約オプション付き機械装置リース

前提:リース期間6年(解約オプション3年目末)、月額リース料200万円、割引率4%、解約違約金1,000万円。

ステップ1:リース期間の判定 解約オプションを行使しない可能性が高い(事業継続必須)と判断 → 6年で計上

ステップ2:リース負債算定 年支払2,400万円 × 年金現価係数(6年・4%)≒ 5.2421 2,400万円 × 5.2421 ≒ 12,581万円

ステップ3:仕訳例

(リース開始日)
(借)使用権資産  125,810,000 /(貸)リース負債 125,810,000

(毎期末)
(借)支払利息   約 5,032,000 /(貸)現預金    24,000,000
(借)リース負債  約18,968,000

(毎期末・減価償却/定額法6年)
(借)減価償却費  約20,968,000 /(貸)使用権資産  20,968,000

3年目末で解約オプションを再評価し、もし「解約することが合理的に確実」と判断が変わった場合、リース負債と使用権資産を再測定します。

5-10. 仕訳例③:セール・アンド・リースバック取引

借手が所有する建物を売却し、同時に同じ建物を借り戻す取引(売却に該当する場合)の典型仕訳例:

(売却・リース開始日)
(借)現預金        300,000,000 /(貸)建物         180,000,000
(借)使用権資産       60,000,000 /(貸)リース負債     90,000,000
                                /(貸)売却益(一部)  90,000,000

ポイントは、借手が継続して使用する権利分だけ売却益を制限することです。詳細は適用指針第50~54項を参照。

5-11. 借手の会計処理FAQ

Q1. 割引率に自社の借入金利をそのまま使ってよいか? A. 借入金利は無担保・短期のものが多いため、契約条件と通貨・期間が一致しない場合は調整が必要です。一般的には期間別IBR表を作成して当てはめます。

Q2. 為替変動はどう扱う? A. 外貨建てリース料は、支払時のレートで換算します。リース負債の期末換算差額は為替差損益として処理します。

Q3. 中途解約時はどう仕訳する? A. リース負債と使用権資産を消去し、差額と解約違約金を損益として処理します。

Q4. 共益費はリース料に含めるか? A. 原則は分離処理ですが、便法(資産種類ごとに包括処理を選択可)を採用すれば含めて処理可能です。

5-12. 経過措置の選択と適用初年度の振替仕訳

経過措置として「累積的影響を適用初年度の期首利益剰余金に加減する方法(簡便法)」を選択した場合、適用初年度の期首に次の振替仕訳が必要です。

(適用開始日:2027年4月1日)
(借)使用権資産  ×××,×××,××× /(貸)リース負債    ×××,×××,×××
                              /(貸)繰延税金負債(または資産)
                              /(貸)利益剰余金

利益剰余金は、過去の期間における減価償却費+支払利息と、過去に計上していた支払賃借料との差額を反映した金額となります。重要なのは、当初測定の簡便法(使用権資産をリース負債と同額で計上する方法)を選択した場合、この差額が利益剰余金に与える影響を最小化できる点です。詳細な要件は適用指針および実務対応報告を確認してください。

5-13. 月次決算における計算項目チェックリスト

毎月の決算処理で確認すべき項目は次のとおりです。

  •  当月のリース料支払額(実際支払額・予定支払額)
  •  利息法による支払利息計算(前月末リース負債残高 × 月利)
  •  リース負債残高の更新(減少額=支払額-利息)
  •  使用権資産の減価償却費計算
  •  1年内返済予定リース負債への振替(流動・固定の区分)
  •  為替換算(外貨建リース)
  •  再測定イベント発生の有無確認
  •  新規契約・解約契約の登録/消去仕訳
  •  監査用の管理資料更新(リース台帳)

5-14. 期末決算特有の論点:減損兆候の判定

使用権資産は減損会計の対象となります。期末決算では、次の減損兆候を確認します。

  1. 使用権資産にかかる営業活動から生じる損益またはキャッシュ・フローが継続的にマイナス
  2. 使用権資産の回収可能価額を著しく低下させる経営環境の悪化
  3. 使用権資産の市場価格の下落
  4. 使用権資産の用途変更・除却計画

兆候が認められた場合、割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額の比較による減損損失の認識判定を実施します。

5-15. 重要:使用権資産=リース負債としない場合の差額の扱い

リース開始日に前払リース料・付随費用・資産除去債務がある場合、使用権資産はリース負債より大きくなります。これらの内訳と仕訳を正確に管理しないと、減価償却計算と利息法計算の整合が取れなくなるため、契約ごとに「リース負債計上額」「使用権資産計上額」「両者の差額の内訳」を記録するテンプレートを必ず整備しましょう。

5-16. 計算テンプレート:リース計算の最低限項目

実務で使う計算テンプレートには、最低限次の項目を含めます。

項目内容入力/計算
契約番号社内管理番号入力
契約相手・物件名識別情報入力
リース開始日開始日(年月日)入力
リース期間月数入力
リース料(月額)固定リース料入力
変動要素物価連動・売上連動等入力
残価保証額・購入オプション該当があれば入力
解約違約金該当があれば入力
割引率借手の追加借入利子率入力
リース負債計上額リース料の現在価値計算
前払リース料・付随費用加算項目入力
資産除去債務該当があれば加算入力
使用権資産計上額リース負債計上額+加算項目計算
月次減価償却費使用権資産÷リース期間計算
月次支払利息期首リース負債残高×月利計算
月次リース負債減少額支払額-利息計算

このテンプレートを契約ごとに作成しても、500件規模ではExcelでは限界。システム化が必須となる理由がここにあります(第10記事参照)。

📌 まとめと次のステップ

会計処理の骨格は「現在価値で計上→定額償却+利息法配分」というシンプルなロジックですが、リース期間の決定が金額に最大の影響を与えます。次の第6記事で詳説します。