AIエージェントが拓くJ-SOX対応と内部統制強化の新時代:大企業の監査実務を変革する
- J-SOX対応の負荷と大企業の課題
上場企業にとって、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(J-SOX法)への対応は、財務報告の信頼性を確保し、企業価値を維持するための重要な責務です 。しかし、その運用には多大な労力とコストが伴います。特に大企業においては、国内外の多数の子会社や関連会社が評価対象となり 、業務プロセスの文書化(いわゆる「3点セット」:フローチャート、業務記述書、リスク・コントロール・マトリックス(RCM)の作成・更新 )、統制活動の運用状況評価、IT全般統制(ITGC)およびIT業務処理統制(ITAC)の評価、そして監査法人による監査への対応など、広範かつ継続的な取り組みが求められます 。

これらの業務は専門知識を要するだけでなく、手作業による評価や証拠収集が多く、経理部門や内部監査部門の大きな負担となっています。リソース不足が慢性化している企業も少なくありません 。
- AIエージェントによる統制活動モニタリングの自動化
AIエージェントは、J-SOX対応における内部統制のモニタリング活動を大幅に効率化し、強化する可能性を秘めています。
継続的モニタリングの実現: AIエージェントは、会計システムやERPシステム内の取引データを24時間365日体制で監視し、統制ルールからの逸脱や異常な取引パターンをリアルタイムで検出します 。これにより、期末に集中して行われる運用テストだけでなく、日常的な統制活動の有効性を継続的にモニタリングすることが可能になります。
アクセス制御の監視: システムへのアクセスログをAIが分析し、権限のないアクセスや不適切な権限設定、職務分掌違反の兆候などを自動的に検出します。
変更管理の追跡: システム設定やマスタデータへの変更履歴をAIが追跡し、承認プロセスが適切に行われているか、不正な変更が加えられていないかを確認します。
- J-SOX監査における証拠収集の自動化
J-SOX監査では、統制活動が有効に機能していることを示すための客観的な証拠(エビデンス)の収集が不可欠です。従来、この証拠収集は手作業で行われることが多く、多大な時間を要していました。
AIエージェントは、監査に必要な証拠収集プロセスを自動化することができます。例えば、特定の取引に関する承認記録、システムログ、設定変更の記録などを、関連システムから自動的に抽出し、監査人が容易に検証できる形式で整理・提示します。これにより、監査準備にかかる時間を大幅に短縮し、監査の効率を高めます。
- AIによるITGC・ITACテストの自動化と効率化
IT全般統制(ITGC)やIT業務処理統制(ITAC)の評価は、J-SOX対応において専門性と工数を要する領域です。AIエージェントは、これらのテスト業務の一部を自動化することで、担当者の負担を軽減します 。
ログレビューの自動化: 大量のシステムログやアクセスログをAIが自動的に分析し、ポリシー違反や異常なアクティビティの兆候を検出します。
アクセス権限の検証: 定期的なアクセス権限の棚卸しにおいて、AIがユーザーアカウントと権限設定の整合性を自動的に検証します。
変更管理プロセスの検証: システム変更要求から承認、実装、テストに至るまでのプロセスが適切に記録・実行されているかをAIが検証します。
設定値の自動チェック: ERPなどのシステムパラメータが、統制上適切な値に設定されているかをAIが定期的にチェックします。
- AIを活用した不正検知と統制上の弱点の特定
AIエージェントは、その高度なデータ分析能力を活かして、不正会計の兆候や内部統制上の弱点を早期に発見することに貢献します 。
異常取引パターンの検出: 過去の取引データや業界標準と比較し、通常とは異なるパターン(金額の異常、取引先の異常、取引頻度の異常など)を検出します。
仕訳データの分析: 機械学習を用いて仕訳データを分析し、不正や誤謬のリスクが高い仕訳を特定します(例:EY新日本のGLAD 、KPMGのAZSA Isaac )。
証憑改ざんの検知: AIが請求書や領収書などの証憑イメージを分析し、改ざんの痕跡を検出する技術も開発されています 。
これらの機能により、潜在的な不正リスクを早期に把握し、予防的な措置を講じることが可能になります。また、検出された異常や統制上の不備は、RCMの見直しや業務プロセスの改善に繋げることができます。
- AIによるJ-SOX文書作成支援
J-SOX対応では、フローチャート、業務記述書、RCMといった文書の作成・更新が継続的に必要となります。AIエージェントは、これらの文書作成業務を支援することも期待されています 。例えば、業務プロセスの変更点をヒアリングし、フローチャートや業務記述書の該当箇所を自動で更新する、あるいは、リスク評価の結果に基づいてRCMの修正案を提示するといった活用が考えられます。NTTデータでは、ニュース原稿の自動生成技術を開発しており、同様の技術が統制文書作成に応用される可能性も示唆されます 。
ファーストアカウンティングの「Deep Dean」は、会計ルールや業務プロセスに対する深い理解を持つため、J-SOX文書の記述内容の妥当性チェックや、統制活動の記述支援など、より高度な文書作成支援に貢献できる可能性があります。
AIエージェントの活用は、大企業のJ-SOX対応を、受動的な「規制対応業務」から、より能動的で価値を生み出す「内部統制強化活動」へと変革させる可能性を秘めています。効率化と統制強化を両立させるために、AIエージェントの導入は検討に値する戦略と言えるでしょう。
J-SOX対応の効率化と内部統制の高度化にご関心のある企業様は、ファーストアカウンティングにご相談ください。