電子帳簿保存法一問一答〜電子取引のデータ保存の留意事項〜

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改正電子帳簿保存法の電子取引の保存要件については、様々な観点で確認しておくべき点があります。特に現状電子メールの添付ファイルで納品書・請求書等のPDFファイルを受領し、これを紙(書面)で印刷している場合は、令和4年1月からは電子で保存することになるため、その保存方法等が気になるところです。

今回は、そうした保存方法について電子帳簿保存法の一問一答から留意事項を明確にしていきます。

1.電子取引による取引データの保存方法

電子帳簿保存法一問一答の問27では、電子取引における取引データは、可視性および真実性の要件を満たすサーバ等に保存することなどが記載されています。

電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】 令和3年7月 国税庁

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問27電子取引を行った場合において、取引情報をデータとして保存する場合、どのような保存方法が認められるでしょうか。
回答電子取引を行った場合には、取引情報を保存することとなりますが、例えば次に掲げる電子取引の種類に応じて保存することが認められます。
1電子メールに請求書等が添付された場合
(1)請求書等が添付された電子メールそのもの(電子メール本文に取引情報が記載されたものを含みます。)をサーバ等(運用委託しているものを含みます。以下同じです。)自社システムに保存する。
(2)添付された請求書等をサーバ等に保存する。
2発行者のウェブサイトで領収書等をダウンロードする場合
(1)PDF等をダウンロードできる場合
①     ウェブサイトに領収書等を保存する。
②     ウェブサイトから領収書等をダウンロードしてサーバ等に保存する。
(2)HTMLデータで表示される場合
①     ウェブサイト上に領収書を保存する。
②     ウェブサイト上に表示される領収書をスクリーンショットし、サーバ等に保存する。
③     ウェブサイト上に表示されたHTMLデータを領収書の形式に変換(PDF等)し、サーバ等に保存する。
3第三者等が管理するクラウドサービスを利用し領収書等を授受する場合
(1)クラウドサービスに領収書等を保存する。
(2)クラウドサービスから領収書等をダウンロードして、サーバ等に保存する
4従業員がスマートフォン等のアプリを利用して、経費を立て替えた場合
従業員のスマートフォン等に表示される領収書データを電子メールにより送信させて、自社システムに保存する。
なお、この場合にはいわゆるスクリーンショットによる領収書の画像データでも構いません。
おって、これらのデータを保存するサーバ等は可視性および真実性の要件を満たす必要がありますので注意してください。
解説法第2条第5号において、電子取引とは、「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」と定義され、その取引情報の具体的な内容は、「取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項」とされています。

この電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に関して、授受した電磁的記録をそのまま上記の方法により保存することが認められますが、電子取引により受領した請求書等の取引情報(請求書や領収書等に通常記載される日付、取引先、金額等の情報)を確認し、改めてその取引情報のみをサーバ等に自ら入力することをもって電磁的記録の保存とすることは認められません。

この一問一答の問27で追記された「おって、これらのデータを保存するサーバ等は可視性および真実性の要件を満たす必要がありますので注意してください。」という冒頭の「おって」という言葉は、(特に)公用文では、前の文を受け、後の文に重要な点を付け加える働きを意味しています。

つまりこの場合は、「おって」前の文で1~4の電子取引データの保存方法を示したものの、「おって」の後段で示した電子取引の保存場所となるサーバには、可視性と真実性の要件を満たすことが必要ということが、特に大事な追記点なので注意してください、という意味が示唆されています。

2.可視性および真実性の要件を満たすシステム

この可視性と真実性の要件を具体的に示す一問一答は問11にも記載されています。

電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】 令和3年7月 国税庁

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問11電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存等を行う場合には、どのような要件を満たさなければならないのでしょうか。
回答電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存等に当たっては、真実性や可視性を確保するための要件を満たす必要があります(規則2②一イ 、二、⑥六、七、4①)。

なお、詳しくは下記の表をご覧ください。
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存等を行う場合の要件の概要
要件法規
1電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け
(自社開発のプログラムを使用する場合に限ります。)
規2②一イ、⑥七、4①
2見読可能装置の備付け等規2②二、4①
3検索機能の確保規2⑥六、4①
4次のいずれかの措置を行う規4①
タイムスタンプが付された後の授受
速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す
※ 括弧書の取扱いは、取引情報の授受から当該記録事項にタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。
データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用
訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け

では、上記問11の回答4の一から四のうち、真実性や可視性を確保できる「データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステム」とは、具体的にはどういうシステムなのでしょうか。この点については電子帳簿保存法一問一答の問30の回答に記載されています。

電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】 令和3年7月 国税庁

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問30具体的にどのようなシステムであれば、訂正又は削除の履歴の確保の要件を満たしているといえるのでしょうか。
回答規則第4条第1項第3号に規定する訂正又は削除の履歴の確保の要件を満たしたシステムとは、例えば、
① 電磁的記録の記録事項に係る訂正・削除について、物理的にできない仕様とされているシステム
② 電磁的記録の記録事項を直接に訂正又は削除を行った場合には、訂正・削除前の電磁的記録の記録事項に係る訂正・削除の内容について、記録・保存を行うとともに、事後に検索・閲覧・出力ができるシステム等が該当するものと考えます。
解説規則第4条第1項第3号に規定する電子計算機処理システムについて、具体的には、例えば、他者であるクラウド事業者が提供するクラウドサービスにおいて取引情報をやりとり・保存し、利用者側では訂正削除できない、又は訂正削除の履歴(ヴァージョン管理)が全て残るクラウドシステムであれば、通常、当該電子計算機処理システムの要件を満たしているものと考えられます。

問30の回答に記載のある「訂正削除ができないシステム」の方は、そうした仕様になっているシステムであることを示すものとして直ぐに理解できます。

一方で「訂正・削除の内容について、記録・保存を行うとともに、事後に検索・閲覧・出力ができるシステム」の方は、もう少し具体的な説明が必要ということもあってか、取扱通達解説(趣旨説明)に、その仕様例が記載されています。

令和3年7月9日付課総10-10ほか7課共同「『電子帳簿保存法取扱通達の制定について』の一部改正について」(法令解釈通達)等の趣旨説明について
参照先:国税庁:全体版/(変更箇所下線あり版)
法第7条電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存関係
(規則第4条第1項第3号に規定するシステムの例示)
7-4規則第4条第1項第3号イに規定する「当該電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること」とは、例えば、電磁的記録の記録事項を直接に訂正又は削除を行った場合には、訂正前又は削除前の記録事項及び訂正又は削除の内容がその電磁的記録又はその電磁的記録とは別の電磁的記録(訂正削除前の履歴ファイル)に自動的に記録されるシステム等をいう。

また、同号ロに規定する「当該電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと」とは、例えば、電磁的記録の記録事 項に係る訂正又は削除について、物理的にできない仕様とされているシステム等をいう。
解説規則第4条第1項第3号は、電磁的に受領した請求書等をデータのまま保存する場合に、同号イ又はロに掲げるシステムを使用することにより、当該電磁的記録の真実性を確保する要件を満たすこととしているが、本通達は、このシステムの具体例を明らかにしたものである。

なお、同号イに掲げるものは、電磁的記録の記録事項の訂正又は削除を行った場合には、訂正前又は削除前の記録事項及び訂正又は削除の内容について、記録及び保存を行うだけでは足りず、事後において、その内容を検索、閲覧及び出力を行うことができる必要があることに留意する。

また、同号ロに掲げるものは、電磁的記録の記録事項の訂正又は削除が物理的にできない仕様とされている等、電磁的記録の記録事項を直接に訂正し又は削除することができないシステムをいう。

解説に記載のある通りですが、求められるシステム仕様の例としては、訂正削除前の記録と訂正削除後の記録が自動保存され、訂正削除の事後に、その記録を検索、閲覧、出力できること等が必要な機能だと分かります。

また一問一答の問30の解説に記載された「他者であるクラウド事業者」という表現にも注意する必要があります。他者である、という表記は第三者性があることを意味しています。この場合では、利用者側では訂正削除できない、又は訂正削除の履歴(ヴァージョン管理)が全て残るクラウドシステムを利用することが、他者であるクラウド事業者の第三者性を意味しています。そのため仮に「自社クラウドで保存」したい場合は、少なくとも事前に管轄税務署または国税局に確認することが必要です。

もちろん自社クラウドの場合でも自社のグループ会社のクラウドで、第三者性が保たれている場合などは「他者であるクラウド事業者」の範疇に入るかもしれませんが、一般的には、自社クラウドの場合、第三者性の観点から規則第4条第1項第3号が適用しづらい、と考える方が無難です。

3.オリジナルの電子データを第三者のクラウド等に保存しましょう

国税庁当局から訊いた話では、今回の改正電子帳簿保存法では、電子取引における紙(書面)出力の保存自体を禁止するものではない、とも言っています。電子取引における電子取引データの保存と従来の取引情報の紙出力による保存との「併存は可能」という考え方です。

一方で当局(財務省主税局、国税庁)としては、今回の改正で、紙出力を認めないようにしたのは、請求書等の取引情報の電子データを受領し当該取引情報を紙(書面)出力した後に、オリジナルの電子データを削除してしまう事案を塞ぐため、とのことです。

他者から受領した電子データと紙(書面)出力との同一性が担保されないような抜け道は、今回の改正で見直された、ということになると思います。

またこうした観点は、紙(書面)でも電子データでも「取引情報の原本を保存しておくことが最も重要」であることを改めて示した、とも考えられます。そのため電子取引では、送信した原本の電子データは何か、受信した原本の電子データは何か、というシンプルかつ重要な観点を見失わないようにして保存することを心掛けていきましょう。

ここで取扱通達解説(趣旨説明)に記載された「保存すべき取引情報」についても確認してみます。

令和3年7月9日付課総10-10ほか7課共同「『電子帳簿保存法取扱通達の制定について』の一部改正について」(法令解釈通達)等の趣旨説明について

参照先: 国税庁:全体版/(変更箇所下線あり版)
 
法第7条電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存関係
(電磁的記録等により保存すべき取引情報)
7-1法第7条電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存の規定の適用に当たっては、次の点に留意する。
⑴電子取引の取引情報に係る電磁的記録は、ディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で出力されることを要するのであるから、暗号化されたものではなく、受信情報にあってはトランスレータによる変換後、送信情報にあっては変換前のもの等により保存することを要する。
⑵取引情報の授受の過程で発生する訂正又は加除の情報を個々に保存することなく、確定情報のみを保存することとしている場合には、これを認める。
⑶取引情報に係る電磁的記録は、あらかじめ授受されている単価等のマスター情報を含んで出力されることを要する。
⑷見積りから決済までの取引情報を、取引先、商品単位で一連のものに組み替える、又はそれらの取引情報の重複を排除するなど、合理的な方法により編集(取引情報の内容を変更することを除く。)をしたものを保存することとしている場合には、これを認める。
(注 いわゆるEDI取引において、電磁的記録により保存すべき取引情報は、一般に「メッセージ」と称される見積書、注文書、納品書及び支払通知書等の書類に相当する単位ごとに、一般に「データ項目」と称される注文番号、注文年月日、注文総額、品名、数量、単価及び金額等の各書類の記載項目に相当する項目となることに留意する。
解説法第2条第5号において、電子取引とは、「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」と定義され、その取引情報の具体的な内容は、「取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項」とされている。
本通達においては、この電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に関して、EDI取引を例にと りながら、留意すべき事項を明らかにしたものである。
なお、通達の⑴から⑷に掲げる事項を説明すれば次のとおりである。
⑴暗号化されたデータの取扱い
規則第4条第1項では、法第7条に規定する保存義務者は、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を規則第2条第2項第2号及び第6項第6号の要件に従って保存しなければならないとされている。このことからすれば、保存すべきデータは、暗号化されたデータではなく、トランスレータと呼ばれる汎用ソフトウェアにより、各企業のシステムに適合する固有のフォーマットのデータに変換したものということとなる。
(中略)
⑵メッセージの交換過程で発生する訂正又は加除のデータの取扱い
EDI取引では、当初送受信したデータ項目の訂正又は加除のデータも順次やり取りされているが、これらのデータは作成過程のものであるということができ、最終的に確定データとなるものであることから、これらの訂正又は加除のデータを個々に保存することなく、確定データのみを保存することも認められる。
(中略)
⑶単価データ等のマスター情報の取扱い
(省略)
⑷編集されたデータの取扱い
データ保存の形態としては、例えば、見積依頼データと見積回答データについて 別々に保存する場合又は双方を一緒にして保存する場合あるいは見積 回答データのみを保存する場合、更には、見積りから決済までのデータを取引先や商品単位で一連のものに組み替えて保存する場合など、種々の形態が考えられるが、合理的な方法により編集(取引内容を変更することを除く。)をしたものを保存することとしている場合には、これも認められる。
ただし、業務システムのデータを編集して送信している場合にその編集前の業務システムのデータを保存する方法又は受信後の業務システムに引き継がれた後のデータを編集して保存する方法は、相手方と送受信したデータとはいえないことから認められない。
(参考)
・メッセージ
EDI取引で交換されるデータの単位。通常1 件の取引が 1つのメッセージとしてやりとりされる。メッセージは、データ項目の種類、各項目の 文字数、使われる文字の種類、並び順などにより組み立てられ、先頭のメッセージヘッダと最後尾のメッセージトレーラで 1つの区切りとなる。
・データ項目
データ要素(データエレメント)ともいい、業務処理上での意味ある情報の最小単位。
・トランスレータ(CIIトランスレータ)
CIIシンタックスルールに基づいて開発されたメッセージと、各企業の情報処理システムに固有なフォーマットのデータを、相互に変換するソフトウェア。

受信した原本の電子データは何か、そのオリジナルな電子データが保存されているか、という観点が重要であることがこうした解説でも示されていることが分かります。

特に「(4)編集されたデータの取扱い」では、その但し書きで、業務システムのデータを編集して送信している場合では、「編集前の業務システムのデータを保存する方法」又は「受信後の業務システムに引き継がれた後のデータを編集して保存する方法」は、相手方と送受信したデータとはいえないことから認められない、としています。

以上のことから、「データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用」して、電子取引により受領した「請求書等の取引情報(請求書や領収書等に通常記載される日付、取引先、金額等の情報)を保存する場合」は、『利用者側で』訂正削除できない、又は訂正削除の履歴(ヴァージョン管理)が全て残るクラウドシステム等を利用して、「オリジナルな電子データを保存」することが、適切な保存方法だと言えます。

4.改正電子帳簿保存法に対応したソリューション機能

今回の記事で示したように、例えば電子取引の電子データについては、その保存方法を、どの方法で電子保存するのかを決める必要があります。

タイムスタンプを用いた保存とするのか、データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用するのか、あるいは訂正削除の防止に関する事務処理規程を備え付けて電子保存するのか、ということを検討する必要があります。

そのうえで令和3年度の電子帳簿保存法の改正では、その改正事項が多岐にわたっているので、自社の電子保存方法と対応するソリューション機能を選択して、令和4年からの運用に備える必要があります。この際、全ての改正事項に対して、1つのソリューション機能で対応できると考えることは現実的ではありません。

弊社がリリースする改正された電子帳簿保存法に対応した「確認作業を自動化するソリューション」も、そういった意味で貴社の業務シーンに利用できる点があると思います。是非この機会に適用検討を進めてみることをお勧めします。