電子帳簿保存法のメリットとは? 大幅に改正されるスキャナ保存制度と導入メリットを解説!

  • 電子帳簿保存法

令和4年1月1日から施行される改正・電子帳簿保存法をご存じでしょうか。まだ経理業務でペーパーレス化が進んでいない場合は、今回の記事は必見です。

オフィスには紙の原本である請求書やレシートがあふれているものの、電子帳簿保存法のスキャナ保存制度は、敷居が高くて導入していない、そんなオフィスをペーパーレス化で一新できる可能性があります。令和3年度に電子帳簿保存法は大幅に改正されました。今回は改正された電子帳簿保存法のスキャナ保存制度と、ペーパーレス化への導入メリットについて解説します。

1.電子帳簿保存法とは?

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存することを認めた法律です。紙のレシート・領収証のような証憑書類もスマホやスキャナでスキャン保存することで、保存したデータを原本とすることが認められています。

電子帳簿保存法は、1998年に制定されてから改正を繰り返し、要件の緩和が進められてきました。特に今回の令和3年度の電子帳簿保存法の改正(施行:令和4年1月1日)では、電子帳簿保存法のシステム要件、事前手続き、内部統制要件が三位一体で見直されています。

電子帳簿保存法が適用される法令と帳簿書類の関係を以下に一覧化します。

(1)国税関係帳簿(2)国税関係書類(3)電子取引
決算関係書類取引関係書類
自社作成取引先⇒受領
データ形式電子データ:自社が最初の記録の段階から一貫して計算機を使用して作成*。電子で作成⇒紙に出力電子データ
書類の名称総勘定元帳貸借対照表契約書契約書契約書注文書
現金出納帳損益計算書請求書(控)請求書(控)領収書領収書
仕訳帳 等棚卸表 等見積書(控) 等見積書(控) 等請求書 等請求書 等
主に関係する電子帳簿保存法電子帳簿保存法電子帳簿保存法電子帳簿保存法電子帳簿保存法
第4条1項第4条2項第4条3項第10条
a.帳簿データ保存b.書類データ保存c.書類スキャナ保存d.電子取引
申請書の提出要否所轄の税務署に申請書を提出する必要あり。(現行では申請書の提出が必要ですが令和4年1月1日からは不要になります)税務署に申請書の提出不要

*手書きの総勘定元帳、仕訳帳などは、電子帳簿保存法の保存対象外です。

電子帳簿保存法は、保存する帳簿や書類の種類、保存するデータ形式によって、適用する保存要件が異なります。

a.帳簿データ保存

自社が最初の記録の段階から一貫してPCで作成した国税関係帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など)を電子保存する場合の要件が、主に電子帳簿保存法の第4条1項で規定されています。

b.書類データ保存

自社が最初の記録の段階から一貫してPCで作成した国税関係書類のうち、決算関係書類(貸借対照表、損益計算書など)や、取引関係書類(請求書・控、見積書・控などの取引伝票)を電子保存する場合の要件が、主に電子帳簿保存法の第4条2項で規定されています。

c.書類スキャナ保存

自社のPCで作成し紙で取引先へ発行した取引関係書類(請求書・控、見積書・控などの取引伝票)や、取引先から紙で受領した取引関係書類(請求書、見積書など)をスキャン保存する場合の要件が、主に電子帳簿保存法の第4条3項で規定されています。

d.電子取引

インターネットなどの電磁的方式による電子取引において、取引先から受け取った注文書、領収書等の伝票や、取引先に交付した注文書、領収書等の写しを電子保存する場合の要件が、主に電子帳簿保存法の第10条で規定されています。電子取引を開始する場合には、現行でも所轄の税務署に申請書を提出する必要はありません。(承認制度の対象外です)

2.改正が繰り返されている書類のスキャナ保存

電子帳簿保存法の改正の中でも、書類のスキャナ保存は、その適用要件が緩和され続けています。現在までの主な改正事項は下記の通りです。

(1)スマホによるスキャン撮影

書類のスキャナ保存制度は、当初は原稿台と一体のスキャナしか利用が認められていませんでしたが、現在はデジタルカメラやスマートフォンなどの撮影による電子化が認められています。このため、出張などの外出先でも紙のレシート・領収書などの原本をその場で電子保存することが可能になっています。

(2)タイムスタンプによる改ざん検知

紙のレシート・領収書などよりも電子データは改ざんが容易です。2016年の税制改正までは、改ざん等がなされていないことを証明する仕組みである電子署名(誰が作成した文書であるかを証明)とタイムスタンプ(ある時点でその文書が存在し、それ以降改ざんされていないことを示す)の両方の利用が必要でした。

現在は、タイムスタンプの付与だけで良くなりましたが、それでも一般財団法人日本データ通信協会が認定するタイムスタンプサービスを利用することが必要で、一般的にその利用費用も必要となります。

(3)取引金額の上限

スキャン保存する領収書等の取引金額は、2016年の税制改正までは、3万円までという上限が設定されていました。現在は、金額に関わらずスキャナ保存が認められています。

一方で現行の消費税法では「3万円未満の課税仕入れ」及び「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、法定事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる旨が規定されています。

(4)内部統制要件

電子帳簿保存制度を適用するためには、事務処理手順を定めた社内規程を整備し、下記の改ざん抑止措置をとることが求められています。

  1. 相互けんせい
    書類をスキャンする人と、紙書類の原本と電子化された記録内容を第三者でチェックする体制が必要です。具体的には、書類の受領者、画像を照合する経理等の担当者、保存要件を検査する第三者によるチェック体制の構築が求められています。
  2. 定期検査
    適正に事務処理が行われていることを確認するため、最低1年1回以上の定期検査が求められています。
  3. 再発防止策
    定期検査等で問題が発生した場合の原因の究明と再発防止策の策定、改善活動が行われる体制整備などが求められています。

3.ペーパーレス化を進めづらかったスキャナ保存制度

電子帳簿保存法の導入で最もペーパーレス化が期待される対象書類は、都度、取引先から紙の原本として受領することが多い納品書やレシート・領収書等の取引関係書類(伝票)です。紙の原本である取引関係書類を電子保存する制度は、電子帳簿保存法のスキャナ保存制度となります。スキャナ保存制度の対象データは以下の通りです。

a電子で作成し、取引先に紙で交付する契約書、請求書(控)、領収書等の「取引関係書類」(取引証憑)
b取引先から紙で受領する契約書、請求書、領収書、見積書等の「取引関係書類」(取引証憑)

現行のスキャナ保存制度は、前項で示した改正を重ねつつも、特に「厳しい内部統制要件」がネックとなり、普及が進んでいません。具体的には、下記の規定がスキャナ保存制度の導入を足踏みさせている、と考えられます。

  1. 3者(書類の受領者、画像を照合する経理担当者、保存要件を検査する第3者)によるチェック体制の構築
  2. 定期検査の実施
  3. 実地検査をしたうえでの原本の廃棄
  4. 再発防止策の構築
  5. タイムスタンプの付与
  6. 自署の付与

こうした相互けんせい要件を含む様々な内部統制要件は、ペーパー管理から電子保存に変更する際に安易な改ざんを防ぐために規定されたものです。電子帳簿保存法では、改ざんがなされていない「真実性の確保」と、誰もが視認・確認できる状態となる「可視性の確保」が適用要件の根幹を成しています。

その一方で、現状のコロナ禍では、新しい時代の流れとしてテレワークの推進が一層求められるようになり、電子帳簿保存法もテレワークを進める障壁材料となっては制定創設の主旨に反する、とも考えられます。

4.大幅に改正されたスキャナ保存制度

令和3年度の電子帳簿保存法の改正(施行:令和4年1月1日)では、電子帳簿保存法のシステム要件、事前手続き、そして電子帳簿保存法の適用を足踏みさせていた内部統制要件などが、下記の省令要旨に公表されているように大幅に見直されることとなりました。

財務省:令和3年度税制改正・省令
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令要旨
出典:財務省 

 国税関係書類に係るスキャナ保存について、次のとおり見直しを行うこととする。(第2条関係)

  1. 一定の方法により当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認できる場合には、タイムスタンプを付すことを不要とする
  2. 適正事務処理要件を廃止する。
  3. 当該国税関係書類に係る電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合には、検索要件について、一定の機能の確保を不要とするほか、所要の整備を行う。
  4. 災害その他やむを得ない事情により、一定の要件に従って当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことを証明した場合には、その要件にかかわらず、当該電磁的記録の保存をすることができる措置を講ずる。
  5. 当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存が一定の要件に従って行われていない場合における保存要件を定める。

(中略)
この省令は、別段の定めがあるものを除き、令和4年1月1日から施行することとする。(附則第1条関係)

タイムスタンプの付与は必須要件ではなくなり、内部統制要件である適正事務処理要件は撤廃されました。

5.令和3年度スキャナ保存制度の税制改正内容とは?

令和3年度のスキャナ保存制度の具体的な改正内容は下記の通りとなります。

国税関係書類に係るスキャナ保存制度の見直し【令和3年度(2021年度)電子帳簿保存法改正】
①     承認制度の廃止
②     タイムスタンプ要件について、付与期間(現行:3日以内)を記録事項の入力期間(最長約2月以内)と同様とするとともに、受領者等がスキャナで読み取る際に行う国税関係書類への自署を不要とするほか、電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステム(訂正又は削除を行うことができないシステムを含む。)において、その電磁的記録の保存を行うことをもって、タイムスタンプの付与に代えることができることとする。
③     適正事務処理要件(相互けんせい、定期的な検査及び再発防止策の社内規程整備等をいう。)を廃止する。
④     検索要件について、検索項目を取引等の年月日、取引金額及び取引先に限定するとともに、保存義務者が国税庁等の当該職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることとする場合にあっては、範囲指定及び項目を組み合わせて設定できる機能の確保を不要とする。

出典:令和3年年度税制改正大綱

スキャナ保存制度は、現行でも課税期間の途中からスキャナ保存に切り替えて電子保存することが可能です。今回の税制改正では所轄の税務署(国税庁)に申請書を提出する承認制度も廃止されるので、適用期間を更に意識することなく紙の証憑(原本)をスキャンできる環境になったと言えます。

なお現行の承認申請制度では、スキャン保存の場合は、「国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請書(スキャナ)」に申請事項を記載し、所轄の税務署の税務署長に対して備えつけを開始する日の3ヶ月前までに、申請書を提出する必要があります。

参考:国税庁[手続名]国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請
国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請書(市販のソフトウェアのうちJIIMA[注]の認証を受けているもの)

参考:国税庁 JIIMA認証情報リスト(市販のソフトウェアのうちJIIMAの認証を得たスキャナ保存ソフトの一覧)

今回の電子帳簿保存法の改正では、こうした承認制度が廃止されるので、スキャナ保存の承認申請だけではなく、「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等の承認申請(帳簿)」と「国税関係書類の電磁的記録等による保存の承認申請(書類)」についても申請書を所轄の税務署に提出する必要が無くなります。(「取りやめの申請」「変更の届出」も令和4年からは不要となります)

今回の税制改正事項を現行のスキャナ保存制度の適用要件と併せて一覧化すると下記のようになります。

【令和4年1月1日から施行される電子帳簿保存法・スキャナ保存制度(現行のスキャナ保存要件との相違)】

書類の区分重要書類一般書類
資金や物の流れに直結・連動する書類資金や物の流れに直結・連動しない書類
契約書、納品書、請求書、領収書など(例)見積書、注文書、検収書 など
1.入力期間の制限【早期入力方式】
国税関係書類に係る記録事項の入力をその受領等後、速やか(おおむね7営業日以内)に行うこと
【業務処理サイクル方式】
国税関係書類に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間(最長2か月以内)を経 過した後、速やか(おおむね7営業日以内)に行うこと
※国税関係書類の受領等から入力までの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る
【適時入力方式】適時に入力(注)
2.一定水準以上の解像度及びカラー画像による読み取り(1)   解像度が 200dpi相当以上であること
(2)赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ 256 階調以上(24 ビットカラー)であること
⑵に関しては、白黒階調(いわゆるグレースケール)での読み取りも認められる。(注)
3.タイムスタンプの付与一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプ(電磁的記録が変更されていないことについて、保存期間を通じて確認することができ、課税期間中の任意の期間を指定 し、一括して検証することができるものに限る。)を、一の入力単位ごとの電磁的記録の記録事項に付すこと
※国税関係書類の受領者等が読み取る場合は、受領等後、署名の上読み取り、特に速やか(おおむね3営業日以内)にタイムスタンプを付すこと
⇒業務処理サイクルに応じた入力期間(最長約2月以内)になります
4.読取情報の保存読み取った際の解像度、階調及び当該国税関係書類の大きさに関する情報を保存すること
※ 国税関係書類の受領者等が読み取る場合で、当該国税関係書類の大きさが A4 以下であるときは、大きさに関する情報の保存は不要
大きさに関する情報の保存は不要(注)
5.ヴァージョン管理国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができる電子計算機処理システムを要すること
6.入力者等情報 の確認国税関係書類に係る記録事項の入力を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認できるようにしておくこと
7.適正事務処理要件国税関係書類の受領等から入力までの各事務について、次に掲げる事項に関する規程を定めるとともに、これに基づき当該各事務を処理すること
⑴相互に関連する各事務について、それぞれ別の者が行う体制(相互けんせい)
⑵当該各事務に係る処理の内容を確認するための定期的な検査を行う体制及び手続(定期的な検査)
⑶当該各事務に係る処理に不備があると認められた場合において、その報告、原因究明及び改善のための方策の検討を行う体制(再発防止)
※小規模企業者の場合で、⑵を税務代理人が行うときは、⑴の要件は不要
⇒廃止不要(注)
8.帳簿との相互関連性の確保国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項と当該国税関係書類に関連する国税関係帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこと
9.見読可能装置の 備付け等⑴ 14インチ(映像面の最大径が 35cm)以上のカラーディスプレイ及びカラープリンタ並びに操作説明書を備え付けること
⑵ 電磁的記録について、次のイ~ニの状態で、速やかに出力することができるようにすること
 
 イ)整然とした形式
 ◻)当該国税関係書類と同程度に明瞭
 
 ハ)拡大又は縮小して出力することが可能
 ニ)4ポイントの大きさの文字を認識できる
白黒階調(いわゆるグレースケール)による保存の場合、ディスプレイ及びプリンタはカラー対応である必要はない。(注)
10.電子計算機処理システムの開発関係書類等の備付け電子計算機処理システムの概要を記載した書類、そのシステムの開発に際して作成した書類、操作説明書、電子計算機処理並びに電磁的記録の備付け及び保存に関する事務手続を明らかにした書類を備え付けること
11.検索機能の確保電磁的記録の記録事項について、次の要件による検索ができるようにすること
⑴ 取引年月日その他の日付、取引金額その他主要な記録項目での検索
⑵ 日付又は金額に係る記録項目について範囲を指定しての検索
⑶ 2以上の任意の記録項目を組み合わせての検索
⇒検索要件について、検索項目を取引等の年月日、取引金額及び取引先に限定する
(判定期間における売上高が1,000万円以下である保存義務者は、「検索要件の全てが不要」)
12.保存義務者が国税庁等の当該職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることとする

項番1~7:「真実性の確保」要件
項番8~11:「可視性の確保」要件
項番12:令和3年度追加要件 注)
本要件は、一般書類のスキャナ保存にのみ適用されます。また、当該電磁的記録の作成及び保存に関する事務の手続を明らかにした書類(当該事務の責任者が定められているもの)の備え付けを行う必要があります。 ⇒適正事務処理要件に係る注記のため削除            

※ 平成28年9月30日以後申請分のもの

つまり今回の電子帳簿保存法の改正で、スキャナ保存制度の一番の導入ネックとなっていた内部統制要件(適正事務処理要件の整備)が撤廃されたうえに、所轄の税務署(国税庁)による事前承認制度も廃止されたので、大幅にペーパーレス化への取り組みがしやすくなったと言えます。

[注]JIIMA:公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会

6.電子帳簿保存法を導入する前に

帳簿・証憑書類に関する管理や運用方法は、経理業務の効率化を進めていくうえで、常に改善が求められる対象です。この経理業務の改善活動の中でも、ターニングポイントになる取り組みが、電子帳簿保存法による電子保存の導入となります。

電子帳簿保存法による電子保存は、通常のITソリューションの適用でペーパーレス化を図る取り組みと異なる点があります。それは電子帳簿保存法による電子保存を進める場合は、この法律の適用を受けるための法的要件を満たすことが必須なうえに、自社の運用に合わせてシステムを構築し電子保存したデータは、長期間にわたって運用することが求められることになります。

また電子帳簿保存法の導入準備が必要なのは、企業の経理部門だけではありません。国税関係帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など)や決算関係書類(貸借対照表、損益計算書等)のチェック関係者である会計監査部門や担当の税理士、税理士法人なども含めた事前検討が必要です。

現状の紙の原本(対象証憑)の量を基に、会計監査部門や税理士と証憑書類を電子化する場合の役割や費用について協議が必要です。自社でスキャン保存するのか、税理士等に記帳代行を依頼するのか、それぞれの導入効果を事前に比較・検討することがとても大切です。

更にDXの観点で、現行業務を整理していくことも必要な準備作業となります。経理業務でどのようなペーパーが発生していて、なぜ電子化できないのか、ペーパーレス化を阻む書類一覧を作成しておきましょう。

特に今から考慮すべきことは、消費税法における税制改正対応です。現行は「3万円未満の課税仕入れ」及び「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、法定事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる旨が規定されていますが、令和5年10月1日に導入されるインボイス制度(適格請求書等保存方式)後は、この規定が廃止されます。

また政府が提出したデジタル改革関連6法案が参議院本会議で2021年5月12日に可決、成立しました。今後はますます書類や手続きの電子化(電子保存)が加速されてくると考えられます。しかしそれでも紙を原本とするレシート・領収書等は一気に無くなることはありません。

そのため今から仕入税額控除(経費)の対象となる3万円未満のレシートや領収書も電子保存できる準備をしておかないと、インボイス制度が始まってからでは、膨大な紙の原本であるレシートを手作業では対応出来ない恐れがあります。

更に帳簿書類は7年間保存する必要があります。膨大な帳簿書類が年々保管スペースを圧迫していくのと同様に、電子保存する場合であっても7年間の運用サイクルを意識する必要があります。

たとえ紙に埋もれなくなっても、膨大な電子データに埋もれては意味がありません。電子帳簿保存法を適用し、どの労力と費用が削減できるのか、何をデータ化し、システムの運用も柔軟に改善できるのか、こうした考慮を事前に検討することはデメリットとは言えませんが、安易に導入するとテレワークを実現する経理業務(主に経費・精算業務など)の現場は混乱する恐れがあります。

7.電子帳簿保存法の制定背景(DXの視点)

電子帳簿保存法の導入メリットを理解するには、電子帳簿保存法の制度創設の背景を正しく知ることが早道です。電子帳簿保存法が制定された際の「基本的な考え方」は下記の通りです。その冒頭は「新しい時代の流れに対応し」という言葉から始まっています。

【基本的な考え方】

「新しい時代の流れに対応し、納税者の帳簿書類の保存の負担軽減を図るために、記録段階からコンピュータ処理によっている帳簿書類については、電子データ等により保存することを認めることが必要であると考えます」

出典:国税庁・電子帳簿保存法の制度創設等の背景より抜粋

新しい時代の流れに対応するためには、常に改善していくことが求められます。電子帳簿保存法自体も改正を繰り返していますが、その本質は「帳簿や証憑書類に係る手作業業務を電子化し、経営活動を常に改善する」ことで、新しい時代の流れに乗っていくために制定された、と言えると思います。

したがって電子帳簿保存法のメリットを得るには、電子帳簿保存法の主な適用分野である経理業務を「どう改善したら自社の経営活動に適合した運用になるか」というDXの視点が必須となります。

電子帳簿保存法を導入しない場合は、帳簿や証憑書類は7年間、紙を原本として保管しなければなりません。こうした電子化しない帳簿や証憑書類は、保管に伴うコストや郵送コスト等が問題にされがちです。しかし課題の本質は、保管コスト等ではありません。

電子保存せず手作業による経理業務を続けていくことによって、会社全体の経営活動に少なからず支障を生じさせていることが課題の本質です。

これからは長期間にわたってテレワークでも自社の経理システムが運用できることを目指すため、1~2年で運用しづらくなるような利用環境は採用出来ません。こうした法制度の制定背景とDXの視点を併せて、導入メリットを考えていくことが大切です。

8.電子帳簿保存法のメリットとは?

以上を踏まえて電子帳簿保存法のメリットは以下の3点に集約されます。

メリット①:経理・精算業務の人件費削減
メリット②:テレワーク経理による経営の効率化
メリット③:ペーパー管理特有の問題からの解放

メリット①:経理・精算業務の人件費削減

電子帳簿保存法を適用すると、例えば出張等で使用したレシート・領収書の証憑書類をスマホ(スキャナ等)でスキャンし、クラウド等に電子保存したデータを国税関係書類の原本として備え付けることが可能となります。

電子帳簿保存法の導入メリットは、こうした紙のレシート・領収書を扱う手間が削減できることです。手間とは経理・精算業務の経費のうち、人件費に置き換えられます。すなわち経理・精算業務の人件費削減が第1のメリットとなります。

ただし経費削減のメリットを受けるには、先ずは自社のペーパー管理が、どのようなコスト構造になっているかを正しく知ることが必要です。経理・精算業務のコスト削減メリットは、ペーパー管理の手間が、どの程度のインパクトを伴って経営活動の阻害要因となっているのか、これを把握することが電子帳簿保存法の適用可否を測る前提となります。

実際に帳簿や証憑書類を電子保存することで、どの程度のコストメリットが生じるのかを知るためには、以下のコスト積算例を基に、ペーパー管理に関する「手間」を事前に計測することをお勧めします。

手間は人件費で換算すると導入メリットが分かりやすくなります。物理的な紙代や印紙代等も確かに経費ですが、人件費に比べると削減インパクトは少ないことが一般的です。そのためペーパー管理の対応工数は、可能な限り人件費に換算し、電子帳簿保存法の導入メリットを事前に測定することがポイントとなります。

ペーパー管理による対応コストの例⇒人件費に換算する
①     帳簿、書類(領収・精算等)への対応時間(申請・承認等)
②     帳簿、書類(領収・精算等)の印刷対応時間
③     帳簿、書類(領収・精算等)への書棚・倉庫等での対応時間
④     帳簿、書類(領収・精算等)に係る郵送・運搬対応時間

次に、人件費に比べると少額になりますが人件費以外のコストも積算しておきます。以下がコスト例となります。

ペーパー管理による物理的なコストの例⇒各種経費を積算
帳簿、書類(領収・精算等)を編纂するファイル代等
帳簿、書類(領収・精算等)の印刷代(紙、インク代等)
帳簿、書類(領収・精算等)の保管費用(倉庫代等)
帳簿、書類(領収・精算等)の郵送代、倉庫等への運搬費用

メリット②:テレワーク経理による経営の効率化

メリットの2つ目は、テレワーク経理を実現しやくなり、経営の効率化が図れることです。電子帳簿保存法の導入メリットを考える場合、帳簿書類を電子保存した後の経営の効率化までを検討しておく必要があります。「帳簿や証憑書類に係る手作業業務を電子化し、経営活動を常に改善する」ことが電子帳簿保存法の本質的な狙いです。

そのため帳簿や証憑書類は単に電子保存するだけでは不十分で、その先の運用まで改善した場合の効果、すなわち「新たな働き方によって生まれるメリット」を同時に考えていくことが重要です。この視点が電子帳簿保存法制定の基本的な考え方にも合致していきます。

電子帳簿保存法における「新たな働き方によって生まれるメリット」とは、現状のコロナ禍の場合は「テレワーク経理」に他なりません。

テレワーク経理は、単に既存のファイリング業務を電子化するだけでは実現しません。可能な限り「人の手」「人の確認・判断」「人の足(出社等)」を使わずに仕訳を含む経理・精算業務等を完結することで、人件費をはじめとする様々なコスト削減効果を働かせ経営を改善させることが本質的なメリットに繋がります。

具体的には、以下のアプローチが電子帳簿保存法の導入メリットを高めるテレワーク経理の適用観点となります。

テレワーク経理を実現するためのアプローチ電子帳簿保存法の導入メリットを高める取り組み例
①     仕訳を含む経費・精算業務(経理業務)の自動化

(経理専任要員は異例な作業だけを担務する)
スマホ等のスキャン入力と連携するAI-OCR、RPAによる手作業事務の自動化、AI自動仕訳の採用等
②     経理業務の標準化

(システムで対応出来ない例外処理は無くす)
出社しないと利用できない機器(高性能な機器)や処理(押印等)を通常の業務運用からの除外
③     クラウド型のテレワーク経理業務サービスの利用

(自社でシステム運用に係る負担は負わない)
経理ワークフローシステムの採用等(申請・承認等の経理業務がどこからでも実現できる機能の採用)

メリット③:ペーパー管理特有の問題からの解放

メリットの3つ目は、ペーパー管理特有の問題から解放されることです。具体的には、以下のペーパー管理特有の下記のような問題と、その復旧対応への手間が無くなります。

ペーパー管理特有の問題発生(例)対応作業(例)
①     日焼け、液だれ、水没、経年劣化、紙をめくる際の扱い等に起因する印字の判読負荷、欠落、紛失帳簿等の再印刷、証憑の捜索、紙の証憑の再発行依頼、保管場所の変更、コピーの取得等
②     証憑の保管後に、保管漏れの証憑が発見される。保管証憑を含む再集計、証憑の貼付箇所の変更
(年月日などで保管証憑の順序を手作業で再貼付)
③     帳簿やファイリング台帳等の保管場所不足通常保管書棚からの移動、増設、書棚から倉庫への移送、再配置場所の周知作業等
④     新たな証憑の分類、区分が発生目次、更新履歴の作成、ファイリング台帳等の再編纂
⑤     帳簿やファイリング台帳の紛失、情報漏洩持ち出し管理台帳の運用の厳格化、監視カメラによるセキュリティ強化

更に、個別の事案ごとに状況が異なるので一概には言えませんが、所轄の税務署(国税庁)からの指摘や調査に対応するための帳簿・証憑等の捜索、提出等に係る手間が少なくなります。

所轄の税務署(国税庁)から指摘を受けて、該当年度の証憑等の捜索や指摘事項の類似事案の有無を確認する作業は、紙の原本ではとても時間がかかります。税務署(国税庁)の指摘が「他の証憑管理に問題が無いことを証明するための整合性確認」の多くは、紙の原本の捜索・検索作業になりがちです。特に倉庫を利用している場合は、段ボール箱の外側に貼られたインデックスと中身が一致せず、当時の担当者もいない、という問題も発生しがちです。

電子帳簿保存法の適用を契機に紙の原本の検索が効率化され、これらの整合性確認に係る煩雑な対応工数なども大幅に削減できると思います。また電子帳簿保存法を正しく適用していることが税務調査でも理解されれば、その後の税務調査への対応や調査頻度も軽減されることが見込まれます。

9.テレワーク経理のソリューションでレシート・領収書等の電子保存を進めましょう

現状の経理業務の分析を実施した後は、自社に適したシステムを選定する必要があります。どういうシステムがあるとペーパーレス化とテレワークが実現するのか、最初からシステムを全面刷新するのではなく、利用効果の高いシステム機能から選定していきましょう。

こうした取り組みを強力に後押しするのが、経理・精算業務で実績のあるスキャナ入力との連携やAI-OCR、RPA、更にはこれらの技術とクラウドで連携するワークフローのソリューションです。RPAを活用すると、利用中のシステムと新規導入システムを低コストで連携できるシステム基盤が実現可能です。また勘定科目の仕訳や精算業務のように同一作業を繰り返す作業はRPAが最も得意とする分野です。

改正されたスキャナ保存制度が施行されるのは、令和4年1月1日なので、レシート・領収書等の電子保存に舵を切る判断は、今だと言えます。スキャナ保存制度を導入しないでテレワーク経理を導入しても、ペーパー管理特有の問題は残ったままとなります。

テレワークであっても膨大なレシート・領収書などもスマホでスキャンし、ワークフロー上の電子保存データとの連携で経理業務の申請・承認を実現するソリューションが普及し始めています。先ずは自社の清算業務などから先進のITソリューションを試行適用してみませんか。