電子帳簿保存法

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はじめに

私たちは今、withコロナという変革を機に「デジタル情報のやり取りだけで、手続を完結させる」デジタルファーストの時代へと急速に舵を切り始めました。令和元年12月に施行された「デジタル手続法*」には、デジタルファーストをはじめとするデジタル技術を活用する行政の基本原則が示され、社会保険や税などの企業実務も大きく変わりつつあります。

しかし、多くの企業は、未だ大量の紙の領収書等を手作業で経費精算や証憑保管をしているのも実情です。月次決算をしようとしても紙の証憑が混在するため、経費の集計などにも多大な工数をかけています。繁閑の差も激しい経理作業をミスなく進めていくには、先ず紙の証憑をはじめとする電子化が欠かせません。

そこで今回は国税庁が定める「電子帳簿保存法」とはどういうものか、という点から、自社をデジタルファーストに導く方法を探ってみましょう。

*デジタル手続法:情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律

電子帳簿保存法、簡単に言うと?

電子帳簿保存法とは、一言で言えば、仕訳帳、総勘定元帳などの帳簿、貸借対照表、損益計算書などの決算書類、それに請求書や領収証のような取引の書類・証憑を電子化し保存する際の要件を定めた法律と言えます。この要件を満たすと、例えば紙の請求書や領収書等の証憑も廃棄*出来るようになります。

*適正事務処理要件を定め、相互牽制に基づく検査を実施した後に、紙の証憑等を廃棄することができます。

電子帳簿保存法の基本的な考え方

国税向けに紙で7年間保存することが義務づけられている総勘定元帳などの帳簿や、決算関係書類、更には領収書などの取引関係の証憑は、大量なうえに多種多様なため、これらを紙の状態で整然と管理・保存していくのは大変な作業となります。そこで「新しい時代の流れに対応し、納税者の帳簿書類の保存の負担軽減を図るために、記録段階からコンピュータ処理によっている帳簿書類については、電子データ等により保存することを認める」という電子帳簿保存法が1998年に定められました。この法律は、紙で整然とした保存が義務づけられている国税関係の帳簿や書類を「電磁的な記録に代えて保存」しても良い、という特例法として成立した法律です。原則は紙での保存ですが、特例として電子で保存することを認めるものなので、この承認を受けるには、税務署長の承認が事前に必要、という位置づけになっています。

参考:国税庁の電子帳簿保存法:基本的な考え方

こうして誕生した電子帳簿保存法は、制定当初は特例化に伴う電子化への厳しい規制がありましたが、現在ではスマホの撮影画像の電子保存が可能となったり、取引金額の上限金額が撤廃されたりと、実践しやすい内容に変更されてきています。とは言え、例えばスキャナを用いた紙の領収書等を電子化する場合でも、電子帳簿保存法の要件に則った形で税務署へ申請し承認を得る必要があるので、どのような要件であれば電子帳簿保存法を適用できるのか、順次確認していきましょう。

保存可能な書類は?

保存可能な帳簿や書類の種類は、以下の通りです。

■ 国税関係帳簿

例:仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳、総勘定元帳など
国税関係の対象となる帳簿は、「自己がコンピュータを使用して作成する」帳簿です。
帳簿のうち例えば総勘定元帳だけ電子データで保存し、他の帳簿は紙で保存することもできます。ただし、帳簿作成の過程で一部を手書きで記録するなど、一貫して電子化していない帳簿は電子帳簿保存法の適用対象外となります。

■ 国税関係書類(決算関係書類)

例:棚卸表、貸借対照表、損益計算書など
「自己がコンピュータを使用して作成する」決算関係書類です。

■ 取引関係書類(国税関係書類以外の書類)

例:請求書、領収書、納品書、見積書など
電子化保存の取引関係書類は下記の3パターンがあります。

  • 「自己がコンピュータを使用して作成」し、取引相手に電子で交付する取引関係書類の控えです。電子で保存する場合の書類となります(第4条第2項)。
  • 「自己がコンピュータを使用して作成」し、取引相手に紙で交付する取引関係書類の控えです。スキャナで電子化して保存する場合の書類となります(第4条第3項)。
  • 取引相手から紙で受領した取引関係書類(証憑)です。こちらもスキャナで電子化して保存する場合の書類となります(第4条第3項)。

帳簿や書類の保存方法は?

保存方法は、以下の3種類があります。③のマイクロフィルムでの保存は、あまり一般的ではないので、ここでは詳細説明を割愛します。

  1. オリジナルの電子データで保存
  2. オリジナルの紙をスキャナなどでスキャンし電子データで保存
  3. マイクロフィルム(COM*)で保存

*COM(Computer Output Microfilm)コンピュータで電子データを出力することにより作成するマイクロフィルム

オリジナルの電子データで保存

会計システムなどの業務システムを利用して、書類を最初から電子として保存する方法です。保存要件は下表の通りです。

帳簿・書類の電子化要件帳簿書類
記録事項の訂正・削除を行った場合の事実内容を確認できること
通常の業務処理時間を経過した後の入力履歴を確認できること
電子化した帳簿の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できること
システム関係書類(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること
保存場所に、電子計算機、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、記録事項を画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できること
取引年月日、勘定科目、取引金額その他の帳簿の種類に応じた主要な記録項目により検索できること〇※
日付又は金額の範囲指定により検索できること〇※
二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること

オリジナルの紙をスキャナなどでスキャンし電子データで保存

この方法では保存できる書類と保存できない書類があります。

スキャナなどで保存できる書類は、次の重要書類と一般書類です。

  • 重要書類:領収書、契約書、請求書、納品書 等
  • 一般書類:見積書、注文書、検収書 等

紙でやりとりした会計上の取引行為の後に行うスキャナなどによる電子化は、取引行為とは別のタイミングで情報が保存されるので、対象書類について資金や物の流れに直接連動する「重要書類」とそれ以外の「一般書類」に分けて規定がなされています。

スキャナで保存できない書類は、以下の通りです。

  • 国税関係帳簿:仕訳帳、現金出納帳、総勘定元帳など
  • 国税関係書類(決算関係書類):棚卸表、貸借対照表、損益計算表など
  • 手書きで作成された帳簿など

2018年からは従来のスキャナに加えスマホでの撮影も認められるようになったので、外出先でも気軽に電子化が可能となりました。スキャナ保存の詳細は、次回でご説明します。

電子取引情報の保存は?

紙ではなく元々電子契約など電子データでやりとりしている取引情報(自己発行の注文書、請求書等)は、電子帳簿保存法第10条の「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」で規定されています。紙から電子へ保存する場合が特例という位置づけとなり税務署長の承認も必要でしたが、こちらは、元々電子化されているものの保存規定なので、特例という位置づけではなく税務署長の承認も不要となります。しかし電子情報での保存が義務になっているので、規定期間(原則7年間)は、廃棄できません。

また電子取引情報は、取引時点と電子データの保存は同時と考え、帳簿との相互関連性の規定はなく、重要書類や一般書類という区分けもありません。
この電子取引とは、「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」と第2条第6号に規定されています。

具体的な取引の例示としては以下の記載があります。

  1. いわゆるEDI取引
  2. インターネット等による取引
  3. 電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む)
  4. インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引

帳簿、書類、電子取引データの保存方法の違いは?

各税法で保存が義務づけられている帳簿や書類は、一定の要件の下に電子データの保存方法が定まっています。表にまとめると以下のようになります。

種類一貫して電子で保存紙をスキャナなどで電子保存
データ保存電子取引データ
(EDIデータ、メールデータ、電子契約データ、FAX等)
スキャナ保存
【国税関係帳簿】自己がコンピュータを使用して作成する帳簿〇:電帳法第4条第1項
・税務署長の承認が必要
(自己作成の電磁的記録)
××
仕訳帳、総勘定元帳
売上帳、仕入帳、現金出納帳
など
【国税関係書類
(決算関係書類)】
自己がコンピュータを使用して作成する決算関係書類〇:電帳法第4条第2項
・税務署長の承認が必要
(自己作成の電磁的記録)
××
貸借対照表、損益計算書、
棚卸表など
【取引関係書類】
請求書、領収書、契約書、
注文書、見積書など
自己がコンピュータを使用して作成し、取引相手に交付〇:電帳法第4条第2項
・税務署長の承認が必要
(自己作成の電磁的記録)
〇:電帳法第10 条
・データ、出力した書面又はCOM により保存しな
ければならない=義務
(税務署長の承認不要)
〇:電帳法第4条第3項
・税務署長の承認が必要
自己が作成した紙の取引関係書類(証憑)の控え
相手発行〇:電帳法第4条第3項
・税務署長の承認が必要
相手から紙で受領する取引関係書類(証憑)

電帳法第4条第2項(青)と10条(緑枠)の違いは?

電帳法第10条:真実性を担保しているシステムから出力された請求書等の取引関係の証憑は、出力された時点で真実性に疑義が生じてしまう可能性があるため、電帳法第10条では以下のどちらかの方法で真実性を担保することが求められています。

  1. 取引情報の授受後遅滞なく、記録事項に認定事業者のタイムスタンプを付すとともに、保存を行う者もしくはその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと。
  2. 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、規程に沿った運用を実施し、記録の保存と規程の備え付けを行うこと。

電子帳簿保存法を申請するには?

電子帳簿保存法を導入するためには、あらかじめ所轄の税務署へ申請手続きを行う必要があります。

(1)必要書類

申請書類は電子化したい書類の種類や電子化の方法によって分かれています。

  1. 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等の承認申請
  2. 国税関係書類の電磁的記録等による保存の承認申請
  3. 国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請

つまり、帳簿も書類も電子化し、取引相手から受領する紙の領収書などの取引関係書類もスキャナ等で保存する場合は、上記の3つの申請が必要となります。手数料は不要ですが、承認申請書を作成し添付書類を添付の上、提出先に持参又は送付することになります。

添付書類は下記の通りです。

  • 電子計算機処理システムの概要、操作説明書等の書類
  • 電子計算機処理に関する事務手続の概要を明らかにした書類
  • 申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類

なお公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が認証するソフトウェアを使用する場合は、記載欄を省略した申請書で申請することができ、操作説明書の添付も不要となります。

(2)税務署への申請期限

帳簿の申請期限:備え付けを開始する日の3か月前の日です。
書類の申請期限:保存を開始する日の3か月前の日です。
(1月1日に保存するには前年の9月30日までに承認申請書の提出が必要)
なおその他にも、電子化前には、システム化に伴う利用方法や証憑の取扱準備も必要なので、こうした各種準備期間も事前に検討しておく必要があります。

2020年改正される電子帳簿保存法は?

2020年10月1日から施行される国税と地方税に関する電子帳簿保存法の改定内容はURLに記載されています。

国税関係帳簿書類の保存義務者が電子取引(取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいう。)を行った場合の電磁的記録の保存方法の範囲に、次の方法を加える。

  1. 発行者のタイムスタンプが付された電磁的記録を受領した場合において、その電磁的記録を保存する方法
  2. 電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステム(訂正又は削除を行うことができないシステムを含む。)において、その電磁的記録の授受及び保存を行う方法

要するに下記のような改正がなされる見込みです。

  1. タイムスタンプ付きのファイルを受領した場合は、そのファイルがそのまま保存対象なる。既存の規定では、例えば取引相手がタイムスタンプ付きで請求書等の証憑ファイルを送付してきても、受領後に自社でもタイムスタンプを付与するか、事務処理規定に従った運用で保存する必要があります。改定後は、自社でタイムスタンプを付与しなくても良いことになります。
  2. クラウド上の電子取引で第三者を介して授受されるデータが保存対象になる。請求書等の証憑が紙や電子ファイルのような形式をとらなくても、電子データのまま保存して良いことになります。

つまり改定後に電子取引を行う場合、電子ファイルの送受信ならば、送信元が改ざんされていないことの証明としてタイムスタンプを付与すれば良く、電子データを送受信する場合は、途中で改ざんできないクラウドの電子取引(第三者を介した授受)の保存でも良いということになります。そのため今年の10月以降は、特に取引数量の多い請求書等の証憑などから電子保存する取り組みが益々増えていくものと想定されます。

終わりに

電子帳簿保存法は、申請してから承認が下りるまで3ヶ月間を要すことと、申請までに内部統制をはじめとする社内規程も見直す必要があることから、準備期間はしっかり確保しておくことが必要です。一方でwithコロナの時代となった今、デジタル化は、もはやためらう時期ではありません。withコロナを大きなチャンスと捉え、例えば経費精算の完全デジタル化などから取り掛かってみてはいかがでしょうか。

次回は証憑をスキャンして保存するスキャナ保存についてご説明します。

(Robotaのソリューション紹介/資料請求等へリンク:出来れば、電帳法に即した形で、請求書に自動的にタイムスタンプを付与して取引相手に自動送付/途中改ざん出来ないクラウドにアップロードするシーンなどが、音声/音楽付きの動画でご紹介できると良いかと思います。)

出典参考:国税庁の電子帳簿保存法Q&A(一問一答)

  1. 【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】令和2年6月 国税庁
  2. 【スキャナ保存関係】令和2年6月 国税庁
  3. 【電子取引関係】令和2年6月 国税庁