【第2回】公認会計士・税理士の高齢化と2025年問題——専門職パイプライン崩壊の危機

日本の経理・会計を支える専門職が、いま静かに、しかし確実に世代交代の危機を迎えています。税理士の半数以上が60歳を超え、公認会計士の3人に1人が50歳以上——。この数字が意味するのは、10年後の日本の会計専門職の姿が、今日とはまったく異なるものになる可能性です。本稿では、JICPA(日本公認会計士協会)と日本税理士会連合会のデータを軸に、専門職パイプラインの崩壊がもたらす「2025年問題」の実像に迫ります。
目次
- データが語る:CPAと税理士の高齢化の実態
- なぜ若手が参入しないのか——パイプライン断絶の構造要因
- 2025年問題:団塊世代の退職が経理に与えるインパクト
- 監査法人の停滞:5年でわずか18人増の衝撃
- シニア経理の限界:平均67歳が示す現場の実態
- 国際比較:米国CPA候補者27%減が示すグローバルな潮流
- まとめ:知識継承のラストチャンス
データが語る:CPAと税理士の高齢化の実態まずは数字を確認しましょう。
日本公認会計士協会(JICPA)が2024年12月に公表したデータによれば、日本の公認会計士36,985人の年齢構成は以下の通りです。
- 50歳以上:36.5%(13,409人)
- 60歳以上:17.0%(6,231人)
- 30歳未満はわずか11.8%
つまり、全公認会計士の約3分の1が50代以上であり、約6人に1人が60歳を超えています。仮に65歳を一線とすれば、今後10年で少なくとも6,000人以上の会計士が現場を離れる計算になります。
税理士の状況はさらに顕著です。
日本税理士会連合会の集計では、税理士の54.4%が60歳以上です。実に半数以上が定年を迎えているか、すでに超えています。日本の中小企業の多くが税理士に経理・税務の実務を依存している現状を踏まえると、この数字は企業経営の基盤に直結する問題です。
これらの数字が示すのは、単なる「人手不足」ではなく、日本の会計専門職の知識と経験の大量喪失リスクです。長年培われた実務ノウハウ、暗黙知、業界慣行への理解が、退職とともに失われていく——それがいま、静かに進行しています。
2025年問題:団塊世代の退職が経理に与えるインパクト
「2025年問題」という言葉は、主に団塊世代(1947〜1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者になることで生じる社会保障費の増大を指して使われてきました。しかし経理・会計の分野では、別の深刻な意味を持ちます。
団塊世代のベテラン経理人材が2025年を境に大量退職の時期を迎えているのです。この世代は、バブル経済の拡大と崩壊、会計ビッグバン、IFRS(国際会計基準)の導入など、数々の変革期を経験してきた「最後の昭和型ジェネラリスト」とも言えます。彼らが持つ実務知——たとえば税務調査への暗黙的な対応ノウハウや、業界特有の商慣行に根ざした経理処理の勘所——は、マニュアル化が極めて困難です。
しかし、退職は現実として進んでいます。受け皿となるべき若手・中堅層の絶対数が不足しているため、知識継承が追いつかず、ところどころで「経理のブラックボックス化」が進行しているのです。
監査法人の停滞:5年でわずか18人増の衝撃
次に、パイプラインの「供給サイド」のデータを見てみましょう。
金融庁の統計に基づくMS-Japanの分析によれば、監査法人に所属する公認会計士の数は、この5年間でわずか18人の増加にとどまっています。
これは、毎年約1,500〜2,000人が公認会計士試験に合格し、その多くが監査法人に就職するという従来のフローを考えると、極めて異様な数字です。大量退職が目前に迫るなかで、監査法人の人員がほぼ横ばいということは、退職者と入職者がほぼ同数で推移していることを意味します。つまり、純増によるパイプラインの拡充がまったく進んでいないのです。
背景には以下の要因が指摘されています。
- 監査法人の離職率の高さ:激務とされる監査法人から、数年で事業会社の経理・財務部門へ転職するパターンが定着している
- 資格取得のハードルの高さ:公認会計士試験の合格率は例年10%前後で推移しており、受験者数自体も減少傾向
- キャリアとしての魅力低下:会計専門職がテクノロジーによって代替されるのではないかという漠然とした不安や、他業界と比較した際の報酬面での競争力低下
これらの要因が複合し、専門職パイプラインは細る一方です。税理士についても状況は似ており、登録者数は微増傾向にあるものの、その多くは60歳以上のシニア層であり、若年層の新規参入は限定的です。
シニア経理の限界:平均67歳が示す現場の実態
ここで、事業会社の経理部門の実態にも目を向けましょう。
「シニア経理財務」の2025年の調査データによれば、企業で経理の実務を担うシニア人材の平均年齢は67歳、最高齢では78歳に達します。大企業を中心に、定年退職後の再雇用や業務委託という形で、ベテランに依存せざるを得ない構図が定着しているのです。
この数字が示唆するのは、経理部門がすでに「次の世代」を育てる余力を失っているという現実です。ベテランに依存しているがゆえに若手の育成機会が限られ、若手が育たないからベテランに依存し続ける——この悪循環が、現場レベルで進行しています。結果として、ベテランが本当に現場を去ったとき、その業務を引き継げる人材が社内に存在しないというリスクが高まっています。
国際比較:米国CPA候補者27%減が示すグローバルな潮流
この専門職パイプラインの崩壊は、決して日本特有の問題ではありません。
米国公認会計士協会(AICPA)の2020年調査によれば、米国ではCPAの75%が退職年齢に達しています。さらにAICPAとNASBA(全米州会計委員会連合会)の共同調査では、CPA候補者の数が10年間で27%減少したと報告されています。
米国労働統計局(BLS)のデータでは、経理・監査人材の離職数は30万人超に達し、2034年まで毎年124,200人の会計・監査求人が発生すると予測されています。また、Robert Halfの調査では、財務リーダー職の採用が「極めて困難」または「困難」と回答した企業の割合が90%超にのぼります。
Advancetrackの「Global Accounting Talent Index 2026」(英米加豪の会計事務所リーダー対象)では、73%がキャパシティ不足で新規クライアントを断っていると回答。さらに26%が業界からの離脱を検討中というデータもあり、人材不足がさらなる離脱を招く負のスパイラルに陥っている実態がうかがえます。
なぜ若手が参入しないのか——パイプライン断絶の構造要因
では、なぜこれほどまでに次世代のパイプラインが細っているのでしょうか。主に3つの構造的要因が考えられます。
第一に、労働環境の問題です。 本シリーズ第3稿で詳述しますが、freeeの調査(n=1,000)では経理担当者の76%が定常的残業を強いられており、TOKIUMの調査では月末残業が平均32時間に達しています。SAP Concurの経理白書2024(n=400)でも、最大週労働時間が60時間超の層が38.3%を占めています。このような働き方が「持続可能でない」と見做され、若年層の参入障壁となっていることは想像に難くありません。
第二に、キャリアの魅力の低下です。 AI・DXといった領域に若年層の人気が集中するなか、会計専門職は「古い業界」「テクノロジーに代替される職業」というイメージを持たれがちです。実際にはAI導入によって経理の役割は高度化するという調査結果(MIT/Stanford研究、2025年)もありますが、その認識が志望者層にまで届いていないのが現状です。
第三に、資格取得の時間的・金銭的コストです。 公認会計士試験は合格までに平均2〜3年、予備校費用を含めると数百万円の投資が必要です。このハードルに対して、得られるリターンが不透明であることが、志望者減少の一因と考えられます。
まとめ:知識継承のラストチャンス
データが示す危機は明らかです。
- 公認会計士の36.5%が50歳以上、税理士の54.4%が60歳以上
- 監査法人の人員は5年で+18人(ほぼ横ばい)
- シニア経理の平均年齢は67歳
- 国際的にも会計人材の枯渇は加速中
専門職パイプラインの崩壊は、すでに始まっています。いま問われているのは、この限られた時間で何ができるかです。ベテランの知識をいかに継承し、若手をいかに惹きつけ、テクノロジーをいかに活用するか——経理・会計の世界は、大きな転換点に立っています。
経理人材不足の実態を全データで見る
本シリーズの全データソースと、それに基づく具体的な解決策をまとめたホワイトペーパーを無料で配布しています。ぜひご覧ください。
次回予告:【第3回】では、「経理担当者の76%が定常的に残業」という衝撃の実態と、属人化が生む悪循環について詳しく解説します。